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すべて、ただの事実でしかない話だ。いまさらと苦笑することができるだけの時間は確実に流れている。
――まぁ、もう十年じゃきかないしな。
深山の中等部に入ったのが、十五年前。「一方的に知っている」わけではない交流を持つようになって、十四年。
サッカーを諦めて、折原と距離を取ることを選んでからも、もう十年。
それが、今。一緒に過ごすようになって、俺は俺で母校でサッカー部の顧問なんてものをしているのだから、それは、まぁ、いまさらな話だった。
「名前呼びだったんでしょ。前、言ってたじゃないですか。悠斗さんっていうのは、地元の後輩思い出すって」
「おまえも、富原のこと、下の名前で呼んでたんだろ、昔は。翔吾だっけ、あいつ」
「そう、そう、昔は。翔吾くんって」
「似合わねぇな」
想像してこぼれた笑みに、折原も懐かしそうな笑い声を立てた。
「俺も藍って呼ばれてましたよ、小学校の四年か、五年くらいまでは」
「おまえが嫌がったんだろ」
同じように右手に手を入れながら、昔、聞いた、と言うと、かすかな苦笑が混ざる。
「富原さんと先輩、たまに俺の話筒抜けすぎて怖いんですけど」
「そこまで頻繁に連絡取ってるわけじゃないから」
「そうかな。本当にたまにびっくりするくらい筒抜けなんだけど」
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