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「おまえな」 「だって、べたべたするなって言うときもあるから」  気をつけてたんだけどな、と続いた台詞に、俺は黙り込んだ。たしかに、言ったこともあったかもしれない。 「じゃあ、今日は」 「たしかに。それは甘やかしだ」    納得した調子で楽しそうに応じた指先がするりと動いて、後頭部に回る。抗う理由もなく顎を上向けると、自然と唇が重なった。飢えを満たすための激しさとはかけ離れた、たゆたうようなゆるやかな温度。  たとえば、こうした触れ方だとか、進め方ひとつを取ってみても、べつにそこまで気にしなくていいんだけどな、と。折原に対して思うことは、あると言えば、いくらでもあるのだが。  そういう触れ方をする当人が、満たされた顔を見せるので、今のところは、まぁ、いいか、と思うことにしている。  気にしているようなそぶりがあれば、甘やかしてやろうかと考えることと、たぶん、同じで。なんだかんだと言ったところで、結局、俺は折原に弱いのだ。  そういうことをするのは、夜。週に一度か二度。翌日の、特に午前中のスケジュールにゆとりがあるときに寝室で、お互いの気持ちが合ったとき。  明確に決めたというほどではない、暗黙の了解のようなもの。
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