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【1】
「小学校はねー、楽しいけど、男の子がね、あんまりなの。うるさいしー、優しくないし」
「そっか、優しくないかぁ」
「そうなの。あと、ぜんぜんかっこいい子もいないし。折原くんがいたらよかったのに」
「あのな、亜衣」
家を訪れた俺たちを笑顔で出迎えて以降。ずっと折原に纏わりついているものだから、ついつい口を挟んでしまった。
姉の家に顔を出すことを気前良く了承したのは、折原であるけれど。たった一回会ったことがあるだけの姪に、小学校の話を延々と聞かされる現状は、さすがに面倒だろうと思ったのだ。おまけに、話の大半がループしている。
入学の半年ほど前からその片鱗はあったんだけど、小学校に入ってから、本当に生意気に拍車がかかったのよ、とは。先月実家に顔を出したときに聞いた姉の言である。
「おまえ、このお兄ちゃんの顔面を基準にすると、なかなかかっこいいのに出会えなくなるぞ」
「だって、クラスの男の子ぜんぜんかっこよくないんだもん。優しくもないし」
「そりゃ、おまえ……」
「でも、折原くんはかっこいいし優しいもん」
にこにこと無邪気に言い放った顔に、会話の相手を自分にすることを諦める。あと、ついでに、偏った認識の修正も。
小学一年生の男子に大人の男と同じ優しさを求めることは無理があるし、存在したとしてもかなりのレアケースに違いない。
「ありがと、亜衣ちゃん」
まぁ、たぶん。ご丁寧に目線を合わせてほほえむ、爽やかの見本のような男は、そのレアケースだったのだろうが。
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