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「いますよ。ただ、俺も中等部から深山の寮に入ってたんで。そんなに仲良く遊んではなかったと思いますけど。年も少し離れてますし、サッカーばかりだったので」 「うちもそう。どこも一緒ね」 「一緒にするなよ」  サッカーを生業にしている人間と。思わずこぼれた突っ込みは、「一生懸命やってたのは事実でしょ」という台詞で一蹴されて終わった。  それはそうかもしれないが、そういう問題ではない気もする。所詮、身内の欲目なので、構わないと言えば構わないのだが。 「ねー、亜衣の入学式の写真」  アルバムを抱えて戻ってきた亜衣が、テーブルの中心に置いたアルバムのページをめくる。  亜衣が説明する入学式の集合写真を一緒に見ながら、「かわいいね」だとか「どの子と仲が良いの」だとか。にぎやかさの増した空間で、愛想の良い受け答えに徹する横顔を一瞥し、俺は溜息を呑んだ。  ――べつにいいと言えば、これもいいんだけど。こいつ、ぜんぜん実家に帰る気配ないんだよな。  最低限は顔出してますから、というのが本人の言い分だが、本当に最低限だと個人的には思っている。 「どうかしました?」 「べつに」  視線に気がついたらしい折原に問われ、なんでもないと俺は首を振った。あいかわらず、視線に目敏くできている。  亜衣が会いたいって言ってるんだけど、の一言で、俺の姉の家、なんて、ほとんど知らない場所への来訪を簡単に了承するフットワークの軽さを、自分の実家にも向けたらいいのに、と少し思ったというだけだ。  そう切り替えて、亜衣が始めた遠足の説明に意識を向けた。
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