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「悪かったな、結局、夜まで付き合わせて」
なんだかんだと引き留められているうちに、すっかり帰りが遅くなってしまった。もう少し早く帰ってやるつもりだったパソコン仕事をしながらそう言えば、「ぜんぜん」と折原が笑った。
「俺は楽しかったし。でも、先輩は大丈夫なんです、それ」
「もうちょっと早く帰るつもりだった」
渋くなった返事に、はは、とまた軽い調子で笑う。向かいの席でこちらが仕事をしていても必要以上に気にしない態度に、勝手に少しほっとした。
居間で仕事をしているときは、喋りかけられてもとくになにも困らない、と。言い続けた成果に違いない。
折原が帰国をしているあいだ、俺は週の半分ほどは今日のように折原のマンションに泊まるようにしている。
期間限定の同棲のようなものだが、そうしようと決めた理由は単純で、そうでもしないとふたりの時間を取ることができなかったのだ。
俺は平日は普通に仕事があるし、土曜日や日曜日のサッカー部の関係で外に出ることがある。
折原にしても、オフと言っても、日がな一日休んでいるわけではなく。古巣のクラブチームに頻繁に通っているし、「日本にいるときにしかできない仕事」で出かけることも多い。
そういったわけで、居間のテーブルで俺が仕事をすることは、ごくあたりまえになっていた。
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