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「先生、クララ、お帰りなさい。演奏旅行は大成功でしたね。ライプツィヒの聴衆はもちろん僕をふくめて、首を長くしてご帰還を待っていました」  クララはか細い声で「ただいま」というのがやっとだった。父の大きな声がかき消すように響く。 「ああ、ただいまロベルト。留守宅への気遣いをありがとう」  ロベルトはクララの姿をとらえたが、うつむいていた彼女は視線に気づかない。目に入ったのは、ロベルトの右手に光る指輪だ。同じ指輪をしているのは、社交界にも出ている魅力的な男爵令嬢のエルナである。ロベルトとエルナは、ヴィーク家の内弟子であったときに恋仲になった。  あれから半年以上を経て、ロベルトとエルナは別れたと父が言っていたのは間違いだったのだろうか。ロベルトにふさわしい存在として認めてほしい、その可能性が大きくなったと期待していただけに、クララの気持ちは沈む。
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