ただいま ライプツィヒ

５

　さっそくクララに、帰還公演を期待する声が出ていた。もちろん、父ヴィークはそのつもりでいた。長期演奏旅行の成果を地元の音楽愛好家に伝えるには、どのようなプログラムがよいか考えていた。彼は娘の教師であるだけでなく、管理者であり企画者だった。
　著名なピアニストであるクララは、舞台からさがれば内気な少女に戻る。帰郷を聞きつけた連弾の共演者である友が、クララに会いに来た。演奏旅行中のこと不在の間のことなどひととおりの情報交換が終わると、クララは悩みを訴えた。
　ライプツィヒに戻った日にさっそくロベルトがたずねてきたこと、しかし父とばかり話していたことを詳しく説明した。
「あの人ほど好きな人は他にいないのに、わたしには一言もなく目もくれないの」
クララの頬に幾筋も涙がつたった。話せば悲しくなるが誰かに言わずにはいられない。耳を傾けてくれる友のやさしさに、いくぶん気持ちが和らいだ。