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「キイス?……ああそうだよ、僕の旦那さ。クーガ達の父親」 シャツの裾を捲り上げ、ボタンもいくつかはずし、ほんの少し顔を赤くさせながら、ウォンは酔った勢いも手伝ってはじめて直接キイスのことを尋ねた。 「どんな男なんだ、キイスってのは」 「どんなって、まあ、モノ好きのフツーの人間さ」 「お前を嫁にしたんだからモノ好きってのはよーーくわかる。もっとこう、それ以外のことだよ。写真とかねえのか?」 「家族写真は寝室に飾ってるけど。あとそうだ、財布にも」 そう言ってカバンから財布を取り出し、忍ばせてある写真をウォンの前にかざした。 「へー……意外と色男だったんだな。クーガは親父似か」 「体格も完全に彼譲りだよ。おっきくてたくましい人でね。まあ見た目はこんなでも、キイスは人間だから、僕の方が力持ちだけどな」 「目の色が薄い…」 「キイスは北欧の混血だ。お母さんがまだ幼いときにこの国に移ってきたらしい」 「大河の街は人種のるつぼだからな…そんなのが大半か。実はクーガから、キイスさんの生い立ちは軽く聞いてんだ。俺やお前と似たような身の上だと。だが人物像みたいなモンはよく知らねえ、会ったこともねえしな。何でも屋なんて、クーガに連れてこられるまで何をする店なのかすらあんま知らなかった」 「お前、しょっちゅうこの辺りでぶらぶら油売ってるくせに、ここでいちばん盛んだった商売を知らなかったのか…いっつも何してんだよ」 「昼間なら、4丁目の茶店でじいさん達と情報交換だ。主に賭け事のな。あとはだいたい夜、カジノと酒場とたまにストリップと…女と居るときはちょっといいレストランにも行くぜ。その女ってのも飲み屋の女だけど。…で、いい感じに女が酔えば、あのネオン街のモーテルにしけこむと。おっと、餌として喰うわけじゃねえからな。…だから何でも屋なんて、骨董屋だの古着屋だのと同じくらい、俺にはカンケーねえ店だと思ってた」 「はっ、カンケーねえどころか、その最たるものこそがのシゴトだろうが。慈善事業から土地の開発から果ては暗殺、恐喝脅迫まで、手広ーく請け負ってるじゃないか。それとおんなじ。靴の修理からメイドから子守、迷い犬探し、大工仕事」 「確かにそう違いねえな」 「キイスは器用だったから、他の店が出来ないこともやれたんだ。どんな依頼でもいつもニコニコ笑いながらね。だからとても愛されていたよ、街の人たちに。魔物を嫁にして、それでも受け入れられるのは、あの人だからじゃないのかな。あんまり深く考えない人で、ちょっと楽天的でさ。だから怒ったりすることもほとんどない。クーガたちが悪さをしたときに、ゲンコツを喰らわすのは僕の役目。そのあとで慰めるのはキイスの役目だった」 「…写真を見るに、確かに寛容そうなツラをしてるな。屈強そうなのにツラだけは優男だ。ずっとこの商売をやってたのか?」 「そのはずだよ。18で教会の施設を卒業して、ここを始めたんだ。それから死ぬまで仕事を変えたことはない。でも最初は儲からないから、並行して占いの仕事もやってたみたい」 「占い?まじないとか、そんなのの類いか?」 「たぶんね。占いが出来る奴はいいよな、あれ当たればけっこういい金になるらしい」 「ふーん…」 「…ああ、それよりさっきから頭が痛いな」 「俺もだ。…飲み過ぎたかな」 「お前は撃たれたせいだろ。ニシ先生に」 「違いねえ。クソッ、あのヤブ医者め」 ロベルタの言いつけを破り、その晩もシロの家に泊まった。どういうわけか、あまり屋敷に戻りたくなかった。 頭が痛い。実は今日に限ったことじゃない。ニシに撃たれた日のことを考える。そもそも自分は、どうしてシロの家の近くの森に居たのだろう、思い出せない。その日に溯ろうとするとズキズキと痛む。 キイスの写真。これもなぜだか、忌々しくズキズキする。森、猟銃、1発の弾丸……… 「クソッ…」
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