大河の街

6

まるでゾンビ映画だ。むしろゾンビ映画の元ネタなんじゃないのか？噛まれたらマモノがうつっちまうなんて恐ろしいな、気をつけないと。そのワクチン、もっともっと強力にしなきゃですね。

人間なのにマモノになっちまうなんて…死ぬよりツライもんな。そういえば、あの何でも屋の嫁。そう、シロ。あいつあんな人間みたいなナリして、マモノなんですってね。

ヒトも喰わないし、フツーにいいヤツだったな、さっきちょっと話しましたけど。ヤツも実はもしかしたら、ホントは魔物じゃなくて…なんちゃってな、あはは、すいません、悪い冗談です。人間との子供まで産んだんでしょ？大したもんだ。

もしもみんなあんな感じなら、マモノなんて怖くないのに。シロみたいなのばっかなら、俺もマモノを嫁さんにしたいなあ。毎日楽しそうだ。

もちろんメスですよ。やだなあ。おっぱいがあるのがいいです、絶対。…え？メスに噛まれたら女になる？オスなら男？ならもしも俺がメスの魔物にやられたら、俺にもおっぱいが…？ああなんだ、見た目は変わらねえのか。そりゃ残念。

…先生、先生の奥様はどうされたのかって、シロが。あいつになんて言っときましょう。魔物に殺られたって言うのはチョット…。ああ、それでよければ。わかりました。

…シロ、先生には直接聞くなよ。残念ながら、先生は奥さんに捨てられちゃったらしくてさ。研究研究で、家庭を顧みないヒトだからな。仕方あるまい。

今はちょっと落ち込んでるから、しばらくはそっとしといてやってくれ。大河の街はでかいから、いずれまた奥さんみたいないいオンナに出会えるさ。そうだよ、逃げちゃったけど、奥さんは先生のことずっと…。

ああ、ダメだ、俺はほんと、昔から嘘がつけねえ。そうだよ、そうだよ、奥さんは魔物に喰われたんだ。でもそのこと、お前には言えないから。言ったらお前も傷付くから。

ごめんな、知らないフリしててくれ。俺たちは、シロのことは大好きだ。でも魔物はいつか根絶やしにしてやりたい。先生の奥さんも、俺の兄貴も、骨すら残ってねえんだから。

…シロ、だからお前は希望なんだ。ヒトと共存して、ヒトを愛することができるお前が、俺の兄さんや先生の奥さんを殺したヤツと同じだとは思ってない。

お前はいったい、ナニモノなんだろうな。

なあ、シロ。