2章-2

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2章-2

レオの肉体が悦んでいるものは、雄としての私の身体か、私の存在か、判別がつかない。彼がまるで自分のもののように私を受け入れてくれるときに、私の心にも危険な快楽が湧き起こる。 会えないことを寂しがるふたりではないが、互いの体温が刻み込まれた肉体は、意思とは無関係に欲しあっているらしい。 しかしあの長期の旅のあいだですら、二晩しかしていなかった。 ウォンとふたりでいたあの光景が何故だかどうにも気に食わなくて、その日の晩は少し度を越してしまった。そんな自分に嫌悪感を抱いたのもあって、それからまたこの地に戻るまで肌を重ねることはなかったが、どんなに大きなベッドをあてがわれても、この部屋のベッドと変わらぬ近さで眠った。 レオを愛している。ロベルタの前でも宣言した。見るたび愛しいと感じている。変わらぬ愛情を求め続けるのは間違っているが、できればこの愛が死ぬまで続けばいいと思っている。 サイラスとキイスの終焉は、不幸だがそれだけではない。キイスは自死を選んだが、死ぬまで妻を愛し、また死してなお愛されている。 ニシと亡妻だってそうだ。彼はいまだに、恋人を探す気配すらない。忙しくなる以前のあの街での暮らしのあいだも、恋人のいないモグをからかう割りには、自分のことには頓着していなかったようだ。あの街に捨ててきた思いもあるのだろうが、彼らが身をもって知った血のあたたかさは、振り払えない。 腰をつかんで、幾度も幾度も、力強くペニスを突き入れる。たったそれだけのことが、どうしてこんなにも意味をもつ行為なのだろうといつも思う。違う人間ではダメだ。レオの肉体の中で蠢き、その中で射精し、混じり合うことでしか、深い満足は得られない。 ー「良きパートナーねえ。」 人間カタログのことを、サイラスから直接聞いた。ロベルタが発案したセラピーの一種だが、この街でも試験的に行うことを決めたらしい。またニシの店…ではない、"病院"が大儲けしているらしいが、患者より不養生な彼がいよいよ過労死しやしないかと心配になる。 もしもいまレオが死んで、私が違う人間とセックスをするとなったとき、カタログにレオとよく似た人を見つけ出し、注文し、こうしてペニスを突き入れたとして、はたしてどれほど満たされ、あるいは何を得られ、あるいは何を解消されるのだろう。 これはもっと身体的、精神的に難を抱えた者のためのシステムであるから、そういうことで易々と受けられるサービスではないが、もしも利用したとして、いったいどういう結果を生み出すのかと、閻は考えた。 考えたが、よくわからないまま終わった。 だからある日またぐうぜんにレオの店で出会したニシに、その話をしてみた。 これのためにわざわざ病院へ出向くことははばかられたが、どうしてもこのシステムによって得られるモノが分からなかったのだ。 「レオの居ぬ間にお尋ねするが……」 レオは厨房で、ふたり分の食事を作っている。 「あの人間カタログ。どう考えても、得られるのは即物的な満足だけですな」 「そうですよ。ご婦人にはあまり分からないだろうが、男は抜かないと身体に悪いでしょう。それも自分で勝手にやればいいのに、どうしてもヒトに処理してもらいたくなりますからね。そういうのに漬け込んだです。…でも中にはほんの少しだけ、ちゃんと表向きの理由にのっとって利用する方もいます。そういう方には我々も、楽しんでこいよ、って思いながら窓口をやってます」 「ほう。あっても無くてもいいというわけではないんですか」 「無いよりはあった方がいい、くらいじゃないですか」 「先生ご自身が利用なさることは?」 「ありません。モグには1度やらせましたけど、タイプの女じゃなかった、ってくだらない報告しか出してきませんでした。…私はどうにも気がすすまない。それより、その話…」 「サイラスさんから聞きました。彼が利用していたこともね」 「そうですか。ならいい。彼はでしたよ。まあ生き血も目的のひとつだったらしいが、それには目をつぶりましたケド。サイラスがなぜあれを利用したかってのは聞いてます?」 「いや…あまり深いところまではお尋ねできませんでした」 「答えてくれると思いますけどね。まあ彼は魔物ですから、おまけに性別まであやふやで…どのように愛し愛されたかで、肉体が変貌というか、後天的に脳が作られていってしまったんでしょうな、そういうふうに」 「ふむ」 「キイスに代わる人はいなかった、という結論には至りましたが、彼はアタマでそれを分かっていながらも、カラダがおさまらなかったんでしょうね。ああ、なんかちょっとヘンな言い方ですけど」 「ペニスを入れる側と入れられる側では得るものが違うのでしょう、それはなんとなくわかります。オスよりもメスの方が神経を使うのでしょうな。構造的な意味で」 「構造…そうですね、まさしく構造的に。身体の中に異物が入るなんて、脳から作り変えなきゃぜったいに順応できませんよ、男は。あの、セックスの際の役割での話ですけど」 チラリと厨房の方を見る。 「だからつまり、快楽を得るっていう単純明快な目的だけじゃないんです。むしろイッてもイかなくてもどちらでもいい。人の体温をたびたび与えられる、という体験の継続が重要だったんです、きっと。ただ抱きしめられるだけでもいいってヒトもいますけど、やっぱりこう、ガツガツやられた方がいい、ってのもあるんじゃないですか。いちばんカンタンに自分がメスになれる行為というか、それが最たるものですから、ペニスで突かれるのが」 先ほどから、途切れ途切れに聞こえる会話。レオは作り終えた料理を持っていくのを、少しためらった。
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