2章-3

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ランチを食べ終え、タバコを吹かす。客がポツリポツリと入り、茶を飲みながらレオと談笑し、帰っていく。 「なあ、さっきの話だけど」 ニシが切り出す。 「なに?」 「クーガくんのこと」 「が、どうしたの?」 「というより、君のことになるかもな」 「僕?」 「クーガくんはさ、マザコンっていうか、君のこと独りにさせたくないんだよ」 ウォンが茶をすすりながら、チラリとニシを見た。 「キイスくんが居たら、クーガくんはもう少し自分のことを優先させられたと思う。…君が悪いってんじゃないよ。でも子供ってそーいうもんじゃないのかなって」 「…まあ、正直それは思ってたよ」 「この街で君の素性を知ってる者はないが、クーガくんと君との関係を知ってすんなりのみこめるヤツもいないだろう。テレビとかラジオの取材が来ちゃいそうだ。魔物で、男で、子供を産んだなんてな。あの街は一種の孤島だから、そんなこともなく平和だったけど」 「先生、僕の新しい恋人をどうするかって話?」 「そうさ」 「……」 ウォンは黙りこくったまま、視線のやり場もなく、ただタバコを吸っている。 「ご婦人とくっつくなら問題ナイと思うけどね。君は妻に先立たれた3人の子持ちのパパ、って設定で」 「女のヒトとセックスはできないな。ガールフレンドが居たのなんて、メイリーシア時代の子供の頃だけさ。手をつないで、さよならのキスをする程度の」 午後3時。病院からはまだ連絡はない。不在のときは、レオの店か昼からあいてるカウンターの酒場に電話がかかってくるようになっている。西陽がさす前のこんなに明るい店内で、酒などもなくこんな話をするのは少し気まずかった。数人の客らの遅い昼飯を出し、最後の"レオ目当て"の女性客が帰り、店には再びこの4人だけとなる。 「レオくん、長っ尻で悪いね。片付けが済んだら君もまたここに来てくれ」 「いいんですよ、いくらでも居てください。…それにしても先生、ここに来るときはいつも何か密談めいたことをしてますね。夜の方が捗りましょうに」 「私は酒が入るとくだらない話しかしたくなくなるんだ。目の前にはこんな大柄な男なんかじゃなくて、きれいな女性がいい。重要なことはアタマがハッキリしてる昼間の会食で決まるもんさ」 「レオにこんなこと話してどーするってんだ」 「レオくんも居たほうがいいから。ていうか"7人衆"がいまここに全員集結していてもいいくらいだ」 「モグはいつだって留守番なのになあ」 「ヤツと私はだいたい考えることが一緒だからいいのさ。私がここにいるなら、モグも同席してるようなもん」 「かわいそうなモグ」 ニシの言わんとするところは、大方予想がついている。あの手紙にも書いてあったよく似たふたりのことについて、せいぜい1、2行のことであったが。しばらくするとレオが新しく飲茶を運んできて、席についた。 「先生、もったいぶらずに。サイラスとウォンさんのことでしょう?」 ひと息つくようにコーヒーを飲んでから、レオは穏やかに切り出した。 「さすが。君の察しがいいから、ここでいつも会談をやるんだ。潤滑油になってくれる」 「察しもなにも、先生と閻さん、おふたりのことをさんざん心配されてたじゃありませんか」 レオがクスクスといたずらめいた顔で笑う。 「おい先生、俺とサイラスのいないとこでなに話してんだよ」 「いろーんなこと話してきたよ。ロベルタを市長にさせた方法以外、だいたいのことはね」 「そりゃあ先生にも言えねえことだ…」 「でも先生、やはりこういうことはお二人だけのときがいいのでは…」 「おや、そう言いながら君もずいぶん悪そうなお顔で笑ってるじゃないか」 「こらレオ、おめーもグルか」 「あはは、サイラスたちをいじめる結託なんてしてませんよ。でも僕も先生も閻さんも、もちろんクーガくんも、先生の影武者のモグさんだって。みな、あなた方ふたりのことを放っておけないのです」 「クーガがなんか言ってたのか?」 このことを打ち明けることが、ふたりに何を招くのかはわからない。けれどもしも打ち明けるならば、必ずのときがいい。クーガがわざわざそれを自分に話した理由。余計な世話になるようなことを、わざわざ話題にあげるという面倒なことをする性質ではない。 クーガは、自分からは言えないのだ。だからレオに打ち明け、ここにサイラスを含む馴染みの面子が集うことに望みをたくしたのだろう。それが今日この時間に早くもやってきたことに、何か意味があるのだろうか。 少し考えて、レオがゆっくりと切り出した。 「昨日の晩、クーガくんがひとりでここに来ましてね。お仕事が終わってから、お酒を少しだけ飲みに」
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