2章-3

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そんなおおよその会話と、クーガのことばを話して聞かせた。そうしたら店内は見事に静まりかえってしまった。 サイラスと鉢合わせてから、珍しく口数の少なかったウォンがとうとう黙り込み、そのはす向かいに座るサイラスは、頬杖をついたまま何ともいえないような表情で一点を見つめ、頬を少しだけ赤くしている。 「クーガくん、おとなになったなあ。ちょっと前まで、転んだだけで大泣きしてた甘えん坊だったのに」 ふたりなどお構いなしに、ニシはクーガの幼かったころをしみじみと思い起こす。 「おふたりの真意はわかりませんよ。わかりませんけれど、クーガくんはこのおふたりならきっと安心なのでしょう」 レオが、何てことのない顔で、また静かにコーヒーを啜る。 「あいつレオさんにはそういうこと話すんだな。エンさんが警戒すべきは俺じゃなくて、間違いなくクーガだろ」 ごまかすような口ぶりだが、サイラスの顔はもう見れない。 「はは、レオ似の恋人ね。早く見てみたいや。見せてくれるのかな。…大事なことを言わないところ、キイスにそっくり。親のそんなとこばっか子供って似るんだな」 手で支えていた頬がずりずりと落ちていき、そのままその手で片目を抑えた。 「サイラス、好きに選んで、好きに決めなよ。ウォンくんに決定権はない。なぜならもう答えは出ているのだから」 「ま、俺はだいたい人のイイナリで生きてきたからな」 あふれる涙を手でぬぐうサイラスに、ニシがポケットのハンカチを差し出した。 「このハンカチちゃんと洗ったやつ?ぐしゃぐしゃ」 「先週からポッケに入ってるけど、まだそんなに使ってないから大丈夫」 「うわ汚ねえ…」 「クーガにはずっと悪いことしたよ。キイスが死んで、弟たちも遠くで暮らしてて、他に頼れる家族なんていなくてさ。母親を見てやれるのは自分しかいないって、悩ませてたんだな、ずっと」 そう言って、両目をぐしゃぐしゃのハンカチで隠すように覆う。 「泣くなサイラス。彼があんなに男前に成長したことを喜ぼうじゃないか」 「だって…嬉しいのか悲しいのか、よくわかんないや」 「ウォンくん、なんか言ってやれ」 「え?いや…ええ?ええと…サ、サイラス、俺はお前のこと好きだぜ。根性も性格もわりいけど、多少なら我慢できるくらいには」 「なんだそれ。大事なことなのに軽いな、君はいつだって」 ニシとレオが声をあげて笑い、ウォンも頭をかきながらとりあえず笑い、サイラスも「いまの告白?」と、泣きながら笑った。 「けど別に、だから何てこたねえよ。いままでどおりだ。俺が他の女と遊びに行くのはダメだっていう制約が増えただけさ」 「きょうから一緒のベッドで寝てもいいっていう自由がひとつ増えたじゃないか」 「な…」 「げー、こいつデカイから買い換えないと無理だ。お前空き部屋使えよ、そこに新しいの置いてやるから」 「それじゃ前となんにも変わんねえじゃねえか…」
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