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聞いていないと答えようとした瞬間、表の方から凄まじい物音が聞こえ。それを追うように、騒々しい声が聞こえ。
慌てて縁側へ向かうと、門の一部が破損しているのが見えた。
どうやら2トントラックが突っ込んできたようだ。門を破壊したトラックは、敷地内で止まり。白いトラックには血のようなものが付着していて、フロントガラスはクモの巣状にヒビが入っている。
突然のことに驚いていると、隣に立った岩島さんが小さく舌打ちした。そして、彼はトラックの運転手を睨み、
「アニキ、ホンマにクソやな……」
誰のことを言っているのか分からなかったが、トラックから降りてきた人物を見た瞬間、全てを悟った。
「……河中さん?」
トラックの前でユラユラと揺れながら歩いているのは、河中さんだった。ホテルで見た時よりも遥かに痩せている彼は、トラックの荷台からポリタンクを取ると、なぜか蓋を開け始めた。
「――あのアホが!」
すると、岩島さんは部屋から勢いよく出て行き。それと同時に、河中さんがポリタンクの液体を頭から被った。
そして、彼は懐からライターを取り出して火を灯す。
無知な私でも、その行為が何を意味するのか分かる。
「やめて!」
私が叫んだ瞬間、ライターが地面の上へと落ちていった。
直後、地面から火が上がり、河中さんへと燃え移る。燃え盛る炎の中、河中さんが悲鳴を上げながら地面の上でのた打ち回り。
駆け寄った使用人の男性達は慌てた様子を見せている。
そんな中、岩島さんが玄関の方から走ってきた。彼の手には消火器が握られており、河中さんの前まで行き着いた彼は、消火器のピンを引き、排出口から排出される白い泡の塊を河中さんに吹きかける。
見る見る内に消えていく火は、しだいに小さくなり、そして消えていった。
「何考えてんねや? 焼身自殺なんかシャレにならへん!」
使用人の男性がスマホを持って電話を掛ける中、岩島さんが怒鳴り散らす。
聞いているのか否か、河中さんは酷い火傷を負っていて。彼は痛みに耐えきれず、地面の上でのたうち回っている。
河中さんのことが心配になり、部屋から出て玄関へ向かうと、亮平おじさんが外へ出ようとしていた。
「部屋に戻りなさい」
靴を履こうとしていると、玄関の扉に手を触れたおじさんは、振り向かずに口を開き。
亮平おじさんの口振りは、明らかに私を制止するもので。おじさんに逆らうわけにもいかず、私は部屋へと戻る。
それでも表の様子が気になって、縁側から外の様子を覗うと、亮平おじさんと岩島さんが話していて。
少したった後にサイレンの音が聞こえ、救急車が門の前に止まり。またサイレンの音が聞こえたかと思うと、遅れて消防車とパトカーが門の近くに数台ほど止まったようだ。
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