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こちらからでは河中さんの様子は分からず、救急隊員と消防隊員。そして、警察官が敷地内に入ってきて、辺りは騒然としている。
これ以上、見ていられなかった。先程の炎が目に焼き付き、悲鳴が耳から離れない。なぜ、どうしてが頭の中で飛び交い、呼吸まで苦しくなり。
救急車がサイレンを鳴らして去っていったのはそれからすぐのことだが、パトカーや消防車が居なくなったのはずっと後のことだ。
夜も深まってきた頃、岩島さんが部屋に戻ってきた。壁に背を預けて蹲っている私は、彼を見ずに床を見つめ、ただ涙を流すばかり。
岩島さんは何も言わずに私の前に座り、黙ったままの状態で私の頭を撫でる。大きく包み込む彼の指の間で、手の動きに合わせて揺れる髪。手で涙を拭いながら彼の顔を見ると、いつになく真剣で。
「アニキが喋れるようなったら、面会に行こう思ってん」
そう話す岩島さんは、笑顔ひとつ見せず。こちらを見る彼の目は、力強く恐ろしい。
「アニキに聞かなあかんことあんねん」
話を続けた岩島さんは、私の頭から手を離した。そして、彼はテーブルの上においてあった煙草の箱から煙草を取り出し、いつものように煙草を吸い始めた。
部屋の中でユラユラと上がる一筋の白い線は、天井に辿り着いて消える。
濡れた目でそれを見ていると、岩島さんは煙草を吹かして、
「……ホンマにアホやで」
と寂しげな表情をして彼は呟き、また煙草を咥える。
辛いのは、私ではなく岩島さんの方。私はホテルに乗り込んできた時しか会ったことはないが、岩島さんは河中さんと仲が良かったはず。
兄弟分というのが何なのかは分からないが、『アニキ』と呼んでいるくらいだ。仲が良かったに違いない。
眠れないまま二人で朝を迎え、カラスの鳴き声が聞こえる中。着替えを済ませた私は、洗面所へと向かい歯を磨く。鏡に映っている私は、少し疲れた顔をしていて、目の下には薄っすらと隈が出来ている。
歯を磨き終えて顔を洗った後、玄関へ向かう。すると、洗面所の方から微かに物音が聞こえ、水が流れる音が後を追う。
きっと、岩島さんだ。私が洗面所を出る際、入れ違いで彼が洗面所へ入っていったから。
靴を履いて玄関の外へ出ると、昨夜のことが嘘だったかのように晴れ晴れとしていて、散歩するにはもってこいの日だ。
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