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夜の営みのない二人
オレは一度も、彼女と夜の営みをしていないのだ。
つまり、肉体関係が全くない。
最初から、彼女は身体が弱いから子供はできないと言っていた。
だが、そうは言われても、オレだって男だ。
そういう行為だけはできるのではないかと、オレは薄っすらと期待していたのだが。
そのたびに、やんわりと彼女に断られていた。
「ごめん、あなたのことは大好きだけど、私、どうしても出血したりすると止まらなくなっちゃって」
「そ、そうか。それじゃ、仕方ないよね」
大好きなら、なぜ?
そう思わないでもなかった。
そんなある日-。
家に帰ると、電気がついていない。
「ただいまー」
だが、返答はない。
「あ、あれ? 具合悪くして寝てるのかな」
オレは寝室に入ってみた。
だが、もぬけの殻だ。
加奈ちゃんは、仕事をしていない。それに、オレの帰る時間はいつもと同じだったし、出掛ける時はいつも前もって連絡をくれている。
「お、おかしい。どこへ行った?」
あの時の記憶が、再びオレの脳裏によぎった。
またどこかに行ってしまったのか?
言いようのない不安が、オレの心を突き刺した。
その時。
プルルルル、プルルルル
オレの携帯が鳴った。
「はい、もしもし。葛城ですが」
―あ、葛城さん。C総合病院の看護師ですが、至急来ていただけますか?
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