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総合病院へ
嫌な予感が、的中した。
「え? 妻に何か!?」
―妻、かどうか分かりませんが。来ていただければ分かります。
やけに看護師の声が落ち着いているのが気になった。だが、とにかくオレはC総合病院に急いだ。
受付で、オレが葛城圭と名乗ると、看護師がこちらへと案内した。
「えっと、加奈は、妻は!」
「妻? ああ、葛城さんはご存じなかったんですね。こちらです」
人の妻に一大事が起こっているはずなのに、この看護師はやけに落ち着き払っている。
その態度から、妻はもうこの世にいないのだと、オレは悟った。
「事故ですか……」
「ええ、事故です。酔っ払いのトラックに轢かれそうになった小学生の女の子を助けようとして、その犠牲に」
その冷静な言葉に、オレは思わず腹が立った。
「あなた、人の妻が死んだというのに、何でそんなに冷静なんですか? ちょっと冷たいと思いますよ」
少し言葉を荒げると、看護師は眉をひそめた。
「死んだ……。そう、ですね。死んだとも言えます」
「死んだとも言える? それはどう言う事ですか?」
声を荒げるオレに、看護師はあくまで冷静だった。
「……もしかして、ご存知ないんですか? あなたの『妻』は……」
看護師がそう言おうとした時、誰かが彼女を呼ぶ声がした。
「山下看護師、その方が持ち主の方?」
「ええ、案内します」
「え? だってそっちは」
声がした方角は、遺体安置室ではなかった。
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