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ちなみに名前はミルワーム
この世に生まれて、気づくとぼくは四角くて真っ黒な大きな空間にいた。親は分からない……けどそんな境遇のやつはここでは珍しくない。
性格の良いやつは、そういう運命をかわいそうだとか苦労してきたんだねと言ってくれるが腹の足しにもならない話題は嫌いだ。
空腹だ。おっ、今日も時間通りに食料が降ってきた。
とてもじゃないがこんなものを高級なレストランとかいう場所で提供されれば金を払わないのは間違いない。けど……うまい。ぱさぱさしているが。
ここは常に空腹なやつが多い……とくにデカいやつはエネルギーの効率が悪いのか食べようとしてくる。
わざわざ共食いなんてしなくても勝手に減っていくのにな。支給される食料だけでは満たされないらしい。
まあ、そんなやつらがいるからこそぼくは生き残れているのかもしれないが。
銀色の長いものが浮かんでいる。今日も誰かを選びに来たようだな。
誰が言ったか忘れてしまったがあの銀色の物体に捕まれば自由の国に行けるとか……そんなのはありえない。
冷静に考えれば分かるはずだ。
ここには食べる以外の娯楽がなく、脱出不可能。
唯一、ここから出られるための手段に希望をもたせるということは……あの大きな手が用意をしたのであろうあの世への片道きっぷ。
ぼくもいつかはあの大きな手が持つピンセットとやらに運ばれるか、食われるか、寿命を迎える運命。
難しいことを考えるのはやめよう、腹が減るだけだ。
ここの娯楽は食べることだけ……充分じゃないか。
ぼくらは食べられるためだけに集められた存在だったとしても。
だって、ぼくはぼくが人間じゃないことを知っている生き物なのだから。
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