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ここまで来れば、見張りに気づかれることはない。
再び魔導ランプに明かりを灯し、かび臭くて細い通路を慎重に進む。水分を孕んだひんやりとした空気が、頬にまとわりつく。
誰にも怪しまれずに彼のもとへ向かうためにはここを通るしかない。
突き当たった扉を開けると、わずかに廊下を照らす魔導灯の明かりが、暗い通路に入り込もうとしていた。魔導灯も魔導ランプと同じように魔力を灯に換えている。
手元のランプを消し、廊下に出るとすぐさま扉を閉める。
高い場所にある大きな窓は、昼間であれば太陽の光を取り込んでくれるが、今はいくつかの星が見えた。足元を照らす魔導灯もおぼろげに光っていた。
目的の扉の前に立つと、すっと姿勢を正す。
――コツ、コツ、コツ、コツ。
控えめに扉を叩くと、中からカチャリと鍵を開ける音が聞こえ、扉が内側に開かれる。
「本当に来たのか?」
闇のような藍色の瞳が、彼女を見下ろす。
「陛下のご命令ですので」
「まあ、いい。他の者に見つかれば面倒だ。さっさと中に入りなさい」
部屋の主は彼女を隠すかのようにして、中へと招き入れた。
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