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「アンちゃん。最初にも言ったけどさ。もし、もし、祭りの最終日に僕が祭りに誘えるようだったら……。一緒にいってくれる?」
「はい……」
きっとローランはいい顔をしないだろう。それでも任務と言えば、納得してくれるかもしれない。
エミーリアはバジムとデートをするわけではない。気の合う友人と祭りに行く、そんな感覚なのだ。
「よかった。アンちゃん、ありがとう。そう言ってもらえるだけで、僕は幸せだったよ」
ちびちびとグラスを傾ける姿が、沈んでいるように見えた。
それに彼が口にした『もし』という言葉が気になる。仕事が終わったら、という意味だろうか。だが、彼の様子がどことなくおかしいようにも見える。
そもそも、なぜこの場で『幸せだった』と過去形で話すのか。まるで、彼のこの先の未来が潰えるような表現である。
「バジムさん……、どうかされたのですか?」
「ん? どうもしないよ。悪いけど、水、もらってもいいかな」
「あ、はい」
エミーリアは、慌ててバジムのグラスに水を注いだ。
「僕としては、アンちゃんを巻き込みたくないんだよ。その魔石が、きっと君を守ってくれるから。絶対に外しちゃだめだよ」
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