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今日は指名ではなかった。いや、今日もだ。そもそも、バジムが来なければまだ指名がもらえるような立場でもなかった。まだ客と寝たこともない。だから、今は顔と名を売る時期。それを毎日のようにママから言われている。
「アンです」
イレーヌのテーブルには、客が四人いた。
「アン。そこに座って、飲み物の準備を」
イレーヌの言葉に従い、できるだけ口元を緩めながら飲み物の準備をする。
「アンは、祭りにいったのかい?」
「はい」
「そうか。アンにも誘ってくれるような男がいたんだな」
まるで小馬鹿にしたような言い方であるが、いちいちそれを気にしていたならエミーリアに娼館での潜入調査など務まらない。
男はエミーリアが隣に座ったのが、不服なのだろう。彼からはイレーヌを求めようとする気持ちがひしひしと伝わってきた。その口からはどれだけイレーヌに貢いだかという自慢話ばかり。
エミーリアは黙って相槌を打ちながらそれを聞いている。ところどころ男を持ち上げるような声をかけると、彼も上機嫌となる。
ふとイレーヌから視線を感じて顔を向けると「その調子よ」と、彼女の顔は言っていた。
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