第八章

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 黒服の男がその場を離れ入口の前に立った時、エミーリアの手に誰かの手が触れた。 「アン」  彼女の耳元で小さく名を呼んだのはママだ。 「あなた。外に出て、助けを呼んできなさい」  エミーリアは、変な声が出ないようにと口元を手で押さえた。 「私の背中に通気口があるのよ。あなたなら、そこから外に出られるから」 「ですが……」 「ここにいたなら、早かれ遅かれ魔石の餌食になる。だからといって、魔法で対抗することもできない」  魔力吸引結界と呼ばれる結界が張られているためだ。試しにエミーリアも簡単な魔法を使うために魔力高めようとしたが、その魔力を感じなかった。結界内では魔力がその結界に吸収されてしまうようだ。だから、生活魔法すら使えないと男は口にしたのだろう。  ママは後ろ手で通気口の鉄格子を静かに外していた。 「よし、外れたわ」 「アン……。お願いよ……、助けて……」  イレーヌの双眸には溢れんばかりの涙が浮かんでいる。
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