430人が本棚に入れています
本棚に追加
黒服の男がその場を離れ入口の前に立った時、エミーリアの手に誰かの手が触れた。
「アン」
彼女の耳元で小さく名を呼んだのはママだ。
「あなた。外に出て、助けを呼んできなさい」
エミーリアは、変な声が出ないようにと口元を手で押さえた。
「私の背中に通気口があるのよ。あなたなら、そこから外に出られるから」
「ですが……」
「ここにいたなら、早かれ遅かれ魔石の餌食になる。だからといって、魔法で対抗することもできない」
魔力吸引結界と呼ばれる結界が張られているためだ。試しにエミーリアも簡単な魔法を使うために魔力高めようとしたが、その魔力を感じなかった。結界内では魔力がその結界に吸収されてしまうようだ。だから、生活魔法すら使えないと男は口にしたのだろう。
ママは後ろ手で通気口の鉄格子を静かに外していた。
「よし、外れたわ」
「アン……。お願いよ……、助けて……」
イレーヌの双眸には溢れんばかりの涙が浮かんでいる。
最初のコメントを投稿しよう!