第八章

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 身軽になった彼女は、するりと通気口に身体を忍ばせた。中は狭くて、エミーリアが四つん這いになって進める広さしかない。少しでも頭をあげれば、ゴツンとぶつかってしまう。  とにかく、暗くて身体が自由に動かせない不自由な空間。真っ暗闇でただ手足を前に進めるだけ。魔法も使えない。 (一本道とは言っていたけれど……。どこまで続くのかしら)  暗闇の中、手探りで進む。目を閉じているのか開いているのかさえもわからない。目の前に広がるのは闇。 (大丈夫……。真っすぐ進めばいいだけだから)  それでもこの暗い空間に一人取り残されてしまうのでは、という恐怖が脳裏をかすめた。 (大丈夫、大丈夫)  心の中で何度も唱えるが、それでも心臓はドクドクといつもより大きく早く動いているし、手足も震えるほどだった。そんなとき、ぽわんと視界が明るくなった。何かが光っている。 (あ、耳飾り……)  明かりの源はバジムからもらった浅葱色の耳飾りであった。暗闇にひとたび明かりが灯れば、心の闇も灯されたような気がした。  前に進む手足に力がみなぎる。
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