プロローグ

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 この部屋は、彼女が幾度も足を運んだ部屋だ。  他の部屋と違い、この時間帯であってもここだけは魔導灯によってとても明るい。  室内の茶系統で揃えられている調度品も深緑の壁紙も、森の中にいるような気分にさせてくれる。  彼女はここをよく知っている。 「座りなさい。今、お茶を淹れる。外は暑くなかったか?」 「お気遣いなく。やることをやって、さっさと終わらせませんか? 団長も災難でしたね。私の教育係に選ばれてしまって」  彼女は表情を変えずに、じっと目の前の男を鋭い視線で見上げた。  彼は何か言いたそうに口元をひくりと動かすが、言葉は無い。  ただ、お互いの腹の底を探り合うような、そんな鋭利な視線が双方から放たれているだけだ。 「やはり、私では勃ちませんか?」  彼女は緋色の瞳を伏せる。 「いや」  男は女の右手をとると、そっと自身の股間へと促す。  触れた箇所からは彼の熱と鼓動が伝わってきた。 「私が相手でも問題はないのですか?」 「むしろ、誇らしい。君の最初の男になれるわけだ」  そこで彼は改めて彼女の右手を取り、その甲に口づけを落とした。 「任務を終えたら、俺と結婚してくれ」
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