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乾いたタオルで額の汗を押さえながら、今日はどの資料を読むか吟味していた。
自席に座って資料を読む。ベルが鳴ればローランのもとに行く。
本当にそれだけの仕事だ。なぜこの仕事が敬遠されるのか、エミーリアにはわからなかった。
チリチリチリン――。
ベルが鳴った。どうやらローランが執務室にやってきたようだ。この時間に呼ばれるのは、朝のお茶を淹れるためである。
「おはようございます、エミーリア・グロセです」
「ああ、おはよう。お茶を頼む」
「承知しました」
お互い事務的な口調で会話を終え、エミーリアはお茶の準備のために隣室へと向かう。
だが、この空間が今までと異なった空気を孕んでいることに気づく。湿気が多く、少し熱がこもっている空気だ。
(もしかして、昨日はこちらに泊ったのかしら……)
エミーリアが彼付きの補佐事務官となってから、この部屋を使われた形跡はなかった。昨日は、よっぽど忙しかったのだろうか。
銀トレイにティーセットをのせ、エミーリアはローランの隣に立ち、彼の前にカップを置いた。相変わらず、薄紅色の可愛らしいカップである。
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