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6 犬江仁と里見志桜里のチームプレー
梓邸。
飽くことなく少女の手を握り、膝の上で少女を抱きしめることに夢中になっている梓と、自分を殺している麗華の耳にノックが響いた。
聞こえなかったかのように男が少女の手に口付ける。
コンコンコン。
少し強めのノックに、男はムッとして声をかけた。
「なんだ。誰もこの部屋へは来るなと言っているだろう」
怒気の籠った声に、男の膝の上で少女は身を竦める。
「申し訳ございません。旦那様」
ドアの向こうから、メイドの声が聞こえてくる。
主人の怒気にも怯えてはいないようだ。
凛としたアルトの声。
この声は、少し前に屋敷に入った梓のお気に入りのメイドの声だと麗華は思った。
「里美先生のお嬢様がいらしております。何やらお急ぎとの事ですが」
里美氏は市長を務めており、市民からの信頼も篤い。
国会議員にも支持者も多く、行く末は閣僚にとの呼び声も高かった。
面会を断って敵に回すと面倒そうだ、と考えた梓は舌打ちしながら少女を膝から降ろすと、ドアを開け、大股で歩いていく。
梓が尊大に部屋から出て行くまで、メイドは綺麗に頭を下げていた。
梓が里見氏の令嬢と話すため、完全に階下に降りたのを確認したメイドは顔を上げた。
そこで初めて麗華が自分を見つめていることに気づいて、微笑みながら会釈し、素早くそっと囁いた。
「麗華さん、あなたを助けにきました。どうぞこちらへ。」
差し伸べられた手を少女が握ると、メイドは素早く少女を抱き上げた。
「詳しく話している間はありません。少しだけ、辛抱してくださいね」
そう言うと、メイドは麗華を抱えたまま、邸内の廊下を音もなく駆け出す。
「おまえっ!待てっ!」
梓邸の黒服使用人の一人に脱走を気づかれた。
麗華に手が伸びる。
あわや、という時にメイドは回転した。
メイド服のスカートがダンスを踊っている貴婦人のドレスの裾のように広がる。
次の瞬間、メイドは軽やかに宙に舞い、足の甲を黒服の首の付け根に当てた。
ドサッと音がして黒服が倒れ、動かない。
気を失っているようだ。
メイドは少女を抱えたまま、静かに着地して麗華に微笑みかけた。
「ちょっと手荒いことするよ。玄関は使えないから、窓から飛び降りる。しっかり俺につかまってるんだよ」
可愛らしい女性だと思っていたメイドは、抱かれて見るとがっちり鍛えられた筋肉な体つきで、麗華は驚いた。
でも、この状況から助けて貰えるのならば、誰であろうとも縋りたい。
メイドと麗華は窓から庭の木に飛び移り、あっという間に、夜の街に溶け込んだ。
気付いた黒服が、慌てて二人を追う。
麗華の首にはアクセサリーを模した発信機をつけてある。
捜索は容易なはずだった。
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