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2 囚われ少女
ポタ、ポタ、と少女の頬を涙が伝って、床に落ちた。
水分は高級な絨毯が吸い取り、染みになることはない。
誰もいない一人きりの時に泣き、声を殺して泣くことは自然と覚えた。
──助けて。誰か助けて。お願い。
心の底から願う少女の心の叫びは、誰にも聞こえない。それが分かっているからこそ、少女の心は深淵から絶望の谷底へ沈みこんで行く。
「麗華、入るぞ」
男の声と共に、ドアが開いた。
麗華と呼ぶ少女に近づき、抱きすくめる老人。
「おまえは美しい。そして素直だ」
大嫌いな老人の膝に乗せられ、抱きしめられた麗華は、身を強張らせる。
麗華の背に回された手が撫でるように動くと、大きな虫が這うような感覚が不気味で、カタカタと震えが走る。
ベタベタする手で、顔や髪を撫で回されるのも、口臭がひどい口元を耳に寄せて囁かれることも、麗華にとっては全てが嫌悪であり、恐怖であった。
「お前は来年、十八になったら私の花嫁になるんだ。今から楽しみだよ」
男が囁く度、麗華の髪や顔に触れる度、そして抱きしめられる度、麗華は自分が死んだ、と思った。
施設から引き取られ、大きな屋敷で何一つ不自由なく暮らせる幸せな女の子。傍目にはそう見えるだろう。
施設の先生も、他の子どもたちも梓と言う力を持った政治家に引き取られた麗華を羨ましがる。
そして言うのだ。
「麗華ちゃんが大物政治家のお気に入りだから、この施設は安泰だね」と。
先生や他の子どもたちを悲しませたくない。
「お前が逃げれば、あの施設はどうなるか分かっているだろうな。支援が止まればあの施設は……行政に力を加えて潰してもいいんだ。そうなると、あそこの子どもたちはどうなるのかな。全てはお前次第。そう。お前は大人しく、賢く、美しい。一生、私の側で微笑んでおれば良い」
麗華の顔立ちを眺め、怯えさえも楽しんでいる醜悪な老人は、世間では児童福祉に篤い、熟練の政治家だと思われている、梓源一郎であった。
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