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4 子どもの家
翌日、信乃と志桜里は「子どもの家」に、焼き菓子を届けに出かけた。
施設内、館の前には黒塗りの大きな車が止まっており、およそ運転手には見えない黒服の男が、車の前で仁王立ちになっている。
子どもの家に相応しくない、殺伐とした雰囲気に、二人素早く走り始める。
志桜里を追う信乃も5箱も荷物を持っているのに、危なげなく俊足を発揮した。
二人とも、並みの運動神経ではなさそうだった。
「こんにちは」
入口で声を掛けて、志桜里が洋館様式の子どもの家に入った。
奥にある園長室から野太い声が響いている。
「いやぁ、こんなにいい話がまとまってめでたいですな」
続いてガハハと笑い声がするが、他の声は聞こえてこないため、一人で話し、笑っているのだろう。
コンコンとノックして、ドアを開けた志桜里は驚いて息を飲む。
「足利さん……」
「おや、里見市長のお嬢様。これは奇遇ですな。」
奇遇と言う割には、少しも驚いていない様子の男は、志桜里を見てニヤリとする。
下卑た男だと思いながら、信乃は志桜里の様子と部屋の中の様子をさりげなく伺った。
園長と職員と思しき女性2人がソファに座り、その後ろに佇んでいるのは10才くらいの少女。
みな、悲しげな表情を浮かべている。
対面に座している足利は、満足そうに笑みを浮かべ、尊大に足を大きく開いてソファに深くもたれている。
その隣には、足利の秘書が立っていた。
無表情で感情は読み取れない。
声をかけられた志桜里は、強ばった表情で少しだけ会釈をした。
「意外な所でお会いしましたね。足利さんがボランティアに興味がお有とは、ついぞ存じませんでしたが」
足利は志桜里の言葉にピクリと少しだけ頬を動かしたものの、生じた怒りを隠すかのように、豪快な笑い声をあげた。
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