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1 八つの霊玉
悪しき政が蔓延り、人知れず泣いている弱き者がある時。
正しき道を開かんとする里見家の元、八犬士、甦らん。
里見家に代々受け継がれてきた手のひらサイズの霊玉、黒色水晶八つの内、二つが青白く発光点滅している。
水晶にはそれぞれ文字が刻まれており、点滅している文字は「孝」と「仁」だった。
霊玉は八犬士同士、もしくは里見家に近づくことによって発光する。
里見 吉孝は、感慨深げに水晶を見つめる。
市長になって二年目、ようやく何かが動き出す。
娘が出かけるような音がしたので、玄関に向かった。
「今日もボランティアかい? 志桜里」
玄関にいる娘に声をかける。
「あ、パパ。おはよう。うん、大学の授業の後にね。児童施設『子どもの家』に焼き菓子の差し入れしようかと思うんだ。子どもたち、喜ぶだろうなぁと思って。たまには差し入れもいいでしょう?」
愛しい一人娘の志桜里に微笑まれて、相好を崩したのは、この街の市長である里見 吉孝だった。
「市長のパパが福祉に力を入れているのだもの。私もこの街を少しでも良くしたくて。出来ることから、少しずつ、学んで行こうと思う。それにね、美味しい焼き菓子を焼くお店を見つけたから、子どもたちのおやつにしようと昨日頼んでおいたの。子どもたち、喜ぶといいなぁ」
嬉しそうに話す娘を、里見市長は厳した。
「一つの施設だけ肩入れするのも良くないぞ」
「分かってる。でもこの市内にある施設だし、放っておけないの」
肩を竦めて答える志桜里に苦笑しながら、手を上げた。自分は娘に甘いようだ。
ついていたテレビからはニュースが流れている。
政治家の梓 源一郎が、児童養護施設への支援をしているのだと、笑顔で写っていた。
「私は妻も子どももない。施設の子どもたちが私の家族のようなもの。日本の未来を担う子どもたちを少しでも応援したいと思っている!」
蝦蟇を思わせる風貌の梓を冷たい瞳で一瞥し、里見市長はテレビのスイッチを切った。
自室に戻り、八つの水晶玉を再び眺める。
自然発光している仁と義の玉を手に取り、呟いて握りしめた。
「頼むぞ。我が犬士たち」
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