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32. 将来設計
ギリスへ戻った私たちは、王女に連れられて城へ行き、怪我の手当を受けたあと、用意してもらった部屋で死んだように眠った。
翌朝朝食の席に王女は現れず、城の使用人に聞いたところ、王女は国王を迎えに行くことと、停戦のために再びウェーデンへ向かったことを聞いた。
エドワードの姿もなかったため、王女とともにウェーデンへと向ったのだと思っていたが、エドワードは部屋にいて、まだ眠っているようだった。
私はエドワードの寝ているベッドの側へ行き、床の上で膝をついて寝顔を眺めた。
寝顔はまだあどけない少年だ。見ていると愛おしさがこみ上げてくる。
元々好意を感じていたけど、エドワードに愛を告げられるまでは、エドワードを愛しているとは自覚していなかった。した途端に愛おしさが募ってたまらなくなってきた。見ているだけで幸せな気持ちになる。
生まれてこのかた好きな人ができたことはなかった。中学までは恋をするには幼かったというか、友達は好きな同級生や先輩の話で盛り上がってはいたけど、私はというと、趣味の裁縫や家事に追われてそれどころじゃなかった。高校は女子校で、バイトもしていなかったし、大学に入るとすぐに病に倒れてしまったため、男性と出会う機会は全くと言っていいほどなかった。
こちらの世界へ来なかったら、恋を知らぬままだっただろう。
ポムに見つけてもらえたことで、生き延びることができただけでなく、愛する人にも出会えたのだ。ポムよ、ありがとう。あなたは友達以上の存在だ。
「梨沙?」
エドワードが目を覚ましたようだ。まだ覚醒途中なのか、夢の中にいると思っているのか、私の方へ手を伸ばした。
私がその手を掴んで手の甲にキスをすると、驚いたように跳ね起きた。
「ふふふ。エドワード、おはよう」
「……おはようございます」顔が真っ赤だ。
「王女様はウェーデンへ戻ったみたい」
「えっ?」
「反乱を停めさせるためと、国王様を迎えにいくためだって」
「……そうですか」落ち込んだように肩を落とした。
「守らなくてももう大丈夫だよ。諸核の根源はやっつけたんだから」
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