1. 余命一日

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 その人の方は驚いた様子だったが、私には見慣れた反応だった。子供の頃から『あまり驚かない子』だと評され、度胸があるとか、心臓に毛が生えているだとかよく言われていた。  白血病になり余命は一年もないと診断が下ったときも驚かなかった。その私に両親や友人が驚いたほどだ。  驚いて何になる? 起きたことは仕方がない。何とかできることなら努力すればいいが、変えられないことは受け入れる以外にない。それならさっさと気持ちを切り替えた方が早い。 「さすが梨沙だ。……だから気に入った」  しかし見渡してもその人の姿は見えない。夢の中でも声が聞こえていただけだ。ここが現実だと言うなら、その人の姿が見えるはず。私のつまらない話を聞いてくれて、病気を治してまでくれた人の姿が。  どんな人なんだろう。身体中に轟くような低く渋い声だから、壮年のオジ様かな? 「梨沙に……」  まぶしい! 太陽の光が目に入った。崖に隠れていた太陽が顔を覗かせたのか?  違う……影が動いている…… 「魔法を使えるようになったこの世界で……」  影ではない崖が動いている! 生き物のように動いている…… 「……人間が魔法を使えなくても生きていけるようにして欲しい」  崖ではない…… 「私たちが去った後に人間たちが困らないように、梨沙の知識を教えてやって欲しい」  それと目が合った。私の顔よりも大きな目……とても巨大な……  さすがの私も驚いた。まるで竜だ。ワニのようでもないしドラゴンボールの神龍にも似ていないが、顔らしき目と口があるところから、蛇のように長い身体がついているから、私の乏しい知識からでは竜としか形容できない。 「竜なの?」 「……梨沙の世界では存在していないから私たちを区別して呼ぶ言葉がない。そうだな、そう呼んでもいい」 「あなたの名前は?」 「それも梨沙の世界の言葉では表現できないから……好きに呼んでくれ」
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