第31話 日本ダンジョン研究所

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第31話 日本ダンジョン研究所

■上野 日本ダンジョン研究所  上野恩寵公園だった場所は、国立西洋美術館の地獄の門からモンスターが溢れ出したことから、再開発が行われダンジョン関係や自衛隊の施設などが集まっている。  アメ横では冒険者用の装備を売る店もできているらしいので、人間は逞しいものだ。  芸術大学のあった場所に作られた日本ダンジョン研究所の入口に俺は立っている。 「いやぁ~まったか~い?」  間延びした気だるげな声が聞こえて来た。  そちらを振り返れば、サマーニットに白衣という胸を強調したスタイルのトーコ先生がいる。  聞こえてきたのはダンジョン研究所の中からだ。 「トーコ先生は確か、日本洞窟研究会の人じゃ?」 「そっちもだけど、この間のダンジョン探索をやってこっちにも籍を置くことにしたんだよ~。もしかしたら、コッチに集中するかもだけどねぇ~」    眼鏡をクイッとしながらニコニコ笑うトーコ先生の姿に無事でよかったと思う。 「それで、今日はここで……服をぬぐってどういうことだ?」 「まぁ、あれだよ。ワタシもやったけど、身体検査だね~。キミの場合はダンジョンコアにも触れているから、異常がないかとかの確認だよ~。ほかにもいろんなスキルをもっているしパラメーターも高いから今日一日はいろいろやるのを覚悟してほし~」 「モルモットになれってことか……」 「せめて治験と言ってほしいねぇ~」  俺はトーコ先生に案内されながら、D研(こういう略をすると教えてもらった)に入った。 「サグルさん! お待ちしてました!」 「高パラメーターの人を図るのは二人目ですからね、いろいろ見させて貰います!」 「二人目?」 「ほ、ほら、ワタシもキミと一緒に潜ったからね~パラメーターが高いんだよ~」  あわわわといった様子でごまかすトーコ先生に思うところはあるものの、大人なので触れないでおく。  面倒事を避けるにはスルースキルも重要だ。 「そういうことか……じゃあ、どうすれば?」 「検査項目は人間ドックと同じようなことを一通り、あとはスキルの効果確認をさせてもらうよ~」 「あちらの更衣室で着替えてください」  職員に案内された俺は検査着に着替える。  パンツ一丁になり、上に薄いのを羽織るだけという感じなのは初めての経験だ。  それからは聴覚だったり、X線だったり、バリウム飲んでグルグル回されたりとたくさんの検査項目をやらされる。  全部終わった頃には〈自己再生〉で疲労はないはずなんだが、ぐったりと疲れていた。 ■上野 ホテル スメラギ内 モンスターイーターズ  検査などを済ませたあと、俺とトーコ先生は上野公園近くにあったホテルの1階にあるモンスター肉を食べられる店に来ていた。  メニューを見るが、普通の高級ランチのさらに10倍の値段をしている。 「トーコ先生、こんなところで飯なんて……俺の住んでいるマンションの家賃くらいあるぞ?」 「大丈夫だよ~キミと探検に行ったときに回収した魔石を売ったぶんで十分足りるどころか、あの一部でも払えるよ~」 「魔石ってそんなに高価だったのか……」 「な~にをいうんだい。今、世界の洞窟、鉱山などは全部ダンジョン化しているんだよ~? 地下資源なんか危なくて取れなくて高騰しているくらいなんだ。だから、魔石から発電したりする技術開発が進んだんだよ~?」 「あー、そんなことイカルも言っていたな」  そんなことを話ながら、俺はまだ食べたことのないモンスターを選びながら、注文を済ませる。  遠慮なく頼んでみたが、値段を計算すると家賃3か月以上になったが、頭を振ってそのことは消し、メニューも閉じた。 「そうそう~、アダマントタートルの甲羅は初めてのアダマンタイトってことだから研究に時間がかかるみたいだねぇ。一部を削れればそこから9月の出発までには装備を作ってくれるそうだよ~」 「助かる。90階層で武器が使えなくなったから、より硬くて強い装備が必要だからな……」 「形状はスコップ……なんだよね~?」 「当たり前だ。スコップは万能だから、それ以外はない」  形状について、困ったように俺に目を向けてきたトーコ先生に対して、俺は迷うことなく答えた。  叩く、払う、受けるという戦闘行動もだが、地面に穴を掘るなどの道具としても使い勝手がいい。  だから、俺はこれからもスコップを使う。  それが”スコップ師匠”という二つ名を貰った責任でもあった。 「こちらがロケットブルのステーキになります」 「アメリカの方のダンジョンに出てくるモンスターらしいね~」 「聞いたことのないモンスターがいるもんだな。未発見生物を探すのも探検の醍醐味か……」  トーコ先生の説明を受けながらロケットブルを食べるとスキルが増える。 〔ロケットブルの摂取を確認。〈ブーストダッシュ〉のスキルを1レベル獲得しました〕 「こうして食べてもスキルは増えるようだな」 「なるほどね~。キミの〈潜在能力:技能喰〉(ユニークスキル:スキルイーター)についてもいろいろ確認したくてね~」  メモを取りながらトーコ先生は答えているが、顔が赤くなってきていた。 「大丈夫か? 風邪とか体調が悪いなら帰った方がいいんじゃないか?」 「風邪とかではないんだけど~、キミのスキルイーターについて実験したいことがひとつあるんだよ~」 「はぁ……」 「すぅーはぁーすぅーはぁー、ええっと、これ……」  俺が不思議そうにトーコ先生をみていると、深呼吸をしたトーコ先生がホテルの鍵をテーブルに置く。  どういうことだ? 「キミのスキルの……”食べる”の範囲を確認しておきたいんだよ……キミがワタシでよければ、だけど……」    ここで断るなんて、できるわけないだろ?
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