第36話 迷宮令嬢の決意

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第36話 迷宮令嬢の決意

■沖永良部島 大樹ダンジョン 外縁部  登っていくほどにトレントの妨害が多くなってきていた。  厄介なことに樹木へ擬態していて、襲ってくるなど不意打ちを受けるケースも出ている。 「一気に燃やした方が楽なんだが……足場も燃えるのは困るからな」  俺はアダマンタイトスコップを振り回してトレントをバラバラにした。  耐久力はそれほどでもないのか、それともアダマンタイトスコップの強度のお陰か、戦いは苦労しない。  後方の迷宮令嬢の部下も自衛隊と同じように銃器と近接武器を組わせて戦っている。 「そっちは大丈夫か?」 『ええ、大丈夫ですわ。けれど、部下の一人が負傷したのでいったん休憩して応急手当をしたいです』 『了解。少し先に木のくぼみがあって休めそうな場所を確認した。そこで休憩を取りましょう』  迷宮令嬢からの意見に小松原三佐が合意を示し、一行はいったん休憩することにした。 ◇ ◇ ◇  俺とトーコは〈自己再生〉のお陰か疲労もあまりたまらず、怪我も治りが早いので気にはならないが他のメンバーはそうでもないので、ゆっくり進む必要があった。  上に上るほどに【魔素濃度】が濃くなり、敵も強くなる。  さらに普通の山昇り同様に酸素濃度は薄くなるので高山病といったものにも気を付けなければならなかった。   「まだまだ先は長いな……」    見えない先を見上げて俺は呟く。 「わたくしのパーティが足を引っ張って申し訳ありませんわ」 「気にするな。探検は互いに協力しあってこそだ」  休憩中なので撮影ドローンは一旦停止していた。  それをわかってか、そうでないかはわからないが迷宮令嬢は俺にグッと近づき微笑んでくる。  金髪の髪が風に揺れて、香水のいい匂いが俺の鼻をくすぐった。 「そういえば、こうしてゆっくり話すのは【DAI Prark Dungeon Villege】以来だな」 「あら嫌ですわ、大岳ダンジョン攻略後の打ち上げでもお話していますわよ?」 『サグルー、そういうとこだぞ。まぁ、サグルの場合はそういうところが人気になっている部分もあるけどねん』 「イカルは黙っていろ」    軽口をたたいてくるイカルを黙らせて、俺は迷宮令嬢に向き合う。  織香よりも上のランクの冒険者であり、その美貌によりファンも多い女だ。  大会社の社長令嬢でもあるので、俺にとっては雲の上のような存在である。  俺にはトーコくらいの方が正直肌に合う……いや、実際に肌も合したんだが……。 「どうして、社長令嬢でDAIでダンジョンアイテムを開発する部署にいるお前が冒険者になっているんだ?」 「そうですわね。DAIの前身であるキャンプ用品を販売していたころからもですけど、わたくしは本物を作るには体験しなければいけないと思っていますの」 「ふむ……コーヒー飲むか?」 「いただきますわ」  少し長い話になりそうだと思った俺は座り込んで〈収納〉からコーヒーの入った水筒と銀色のマグカップを二つ取り出す。  黒い液体がコップに注がれていくのを見ながら、”迷宮令嬢”キャサリン・スメラギは話をつづけた。   「実際に使ってみていい物となるには使う場面を実際に肌で感じないといけませんわ。わたくしが初めて作ったキャンプ用品はこのマグカップですわ」 「なんと……そうか、だから知っていた気がしたのか」  ダンジョンができる前から使っているアイテムの開発者に出会て、俺は嬉しくなる。  ソロキャンプもする俺にとって、このマグは長期間使えて飲み物が美味くなる温度変化を楽しめる一品だった。 「だから、ダンジョンが世界に出て来たときその最前線で使うものはわたくしが最前線を経験しないといけないと思いましたわ」 「それでSランク冒険者まで行ったんだな……すごい努力だ。尊敬する」 「おほめにあずかり光栄ですわ。わたくしだけでも、最前線は難しくなってきた中、あっさりとダンジョン攻略をしたサグル様に大変興味を持ちましたの」  ん? なんか話の方向性が変わってきた気がするぞ。  スメラギの顔は色っぽく、頬を染めている様子が見えた。 「出会いの広場で会った際は社長令嬢としての興味でしたが、今は女としてサグル様に興味を持っております。ですから、キャンプ前の結婚の話は割と本気ですわ」  クスクスと微笑みを浮かべてからコーヒーを飲みほし、軽く俺の頬へキスをするとスメラギは立ち上がった。 「ライバルが多いようなので、ツバを付けつつ頑張らせていただきましょう。では、パーティの方へ戻りますわね。コーヒーごちそうさまでした」  俺にからマグカップを返したスメラギはスタスタと去っていく。 『サグル~、僕ちゃんは映像見てないから何とも言えないけど、チューされやなら拭かないと面倒事になるよん』 「そうだな、ありがとう」  イカルからのアドバイスを素直に受け取り、ごしごしと袖で頬をぬぐってから俺は自分のパーティと合流した。
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