帰還

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 5日前  彼は「登山する」と両親に言葉を残して外出した。登山というと聞こえはいいかもしれないが、実態はただの探検であった。  登山といえば登山ではあるが、一般的な登山ではなく山道を逸れて崖を登り降りする常軌を逸したものであり、気がついたら彼はどこにいるのかすらも分からなくなっていた。  彼は体力もかなり浪費しており、自力で動ける状況ではない上に現在地に対する土地勘もないためこの場所に留まること鹿できなかった。  5日後  「なんかいてはる」  どこかしらから野太い声が響くが、彼はその言葉にかろうじて反応するだけだった。飢えと渇きで移動どころではなかったからだ。  野太い声が響いて5分後、声の持ち主は彼の元にやってきて彼をそのまま担いでいった。  幸い、彼が中学生にしてはかなり小柄な部類だったこともあり、謎の男も分速100メートルの速さで担ぎながら歩くことも可能であった。  謎の男が彼を担ぎ続けて30分してようやく山道にたどり着くことができた訳だが、謎の男は彼の在住地を知らないのでそのまま下山することにした。  下山すること15分、ついに道路が舗装された道路になる訳だが、舗装された道路を見て男は一抹の希望を見いだしたわけである。  この男が一抹の希望を見いだしてから10分後、周囲にちょくちょく一軒家を見かける訳だが、市街地まではまだまだ距離があることを考えると男も気分が沈んでいくのである。  中学生を担ぎながら歩くこと自体に気分が滅入っていくのか、男は歩けば歩くほどタクシーを使いたいという衝動に駆られていくのだが、中学生のタクシー代を払わなければいけないことを考えて歩き続けた。  下山して1時間するとガソリンスタンドやコンビニエンスストアが道路沿いにあることを確認するが、市街地に到達するまでかなり時間がかかることを考えるとかなり滅入るので、思い切ってタクシーを呼ぶことにした。中学生を担ぎながら歩くことに限界を感じたのである。  男はガラケーを手に取りそのままタクシー会社に電話をすると、15分も経たないうちにタクシーが来ていた。  男は中学生と共にタクシーに乗り込むと、そのまま最寄り駅まで移動するよう運転手に伝えた。  タクシーで移動すること30分後に目的地の最寄り駅に到達した訳だが、男はほぼ意識不明状態の中学生を引きずってタクシーから降ろすことで精一杯だった。  男は中学生をタクシーから引きずり降ろした後、4000円程の金額を運転手に払い最寄り駅を後にした。中学生は頭をぶつけた衝撃で意識を取り戻したのか、男がその場を後にして2分後に目を覚ました。  中学生は意識が朦朧としている中、なんとか自宅に辿り着こうと這いながら移動するわけだが、わずか5分で中学生はその場に倒れ込んだ。もう這う体力すらも残っていなかったのである。  中学生が傀儡となって5分後、  「◯◯じゃん」  どこかしらからか声が響く。中学生の友達の声だった。  声の持ち主は中学生がいる場所に移動すると、そのままスマートフォンを取り出し本人の両親に電話した。  中学生の友達が電話してから10分経つと中学生の友達の親がやって来て、2人がかりで中学生を後部打席に運んでから自動車でその場を後にした。  「着いたよ」  こうして、中学生の友達とその親は遭難した中学生を中学生の自宅に帰宅させたのであった。      
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