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夕暮れ時の神様
「よーわ、ざっこ♡」
「まぢ無能♡ ほんと仕事できない♡」
「何年この仕事してんの~?」
「くっ……!」
今日も今日とて、かなり若い同僚たちから罵倒されてしまう。くそっ……年なら俺の方が遥かに上だってのに、ちょっと仕事できるからって無礼やがって……!
嘲るような笑顔を向けられながらも、耐え忍びながら俺はトラックから下ろした荷物をパレットに積み上げていく。他のやつと比べれば牛歩のようなペースかも知れないが、俺だってサボってる訳じゃないんだぞ……!
それに、それになぁ!
「学生時代の成績だったら、お前らになんか絶対負けないんだからな……!」
「なんか言ってる~、ウケる」
「ザコの遠吠え♡ 無能者の小唄♡ 穀潰しの空威張り♡」
「あんまジロジロ見てると通報しちゃうよぉ~?」
くぅぅぅ!
くっそぉぉぉ……!!
俺を見て嘲笑いながら、それでも俺よりよっぽど速いペースで綺麗に荷物を積み上げていく同僚たちを見て歯軋りしながら、俺はどうにか退勤時間まで仕事を続けた。
そして、どうにか怒りを静めながらタイムカードを切る。
何なんだろうなぁ、本当に。
中途半端な学歴の使いどころもなく、腰をやるんじゃないかという不安や肩の痛み、腕にできた小さいけど痛む切り傷と戦うだけの1日。
日が昇って間もなく出社して、暮れ泥む夕景を見ながら帰る毎日──ガキの頃の俺が見たら嘲るだろう俺。
だが。
そんな俺の帰りを待つのは、ママだ。
ママが俺を待っている!
さぁ、帰るぞ!
ママの待つ、寂れた団地に!!
そう思って駆け出した俺の前に、見知らぬ幼女が現れた。たまたま道を歩いているのに出会したとかではなく、本当に突然、電気を点けたり消したりするみたいにパッと現れたのだ。
柔らかなブロンド髪に、少しの風で大きく捲れてしまいそうな純白のローブ、そして無防備に開いた胸元から幼い鎖骨を惜しげもなく晒して、恐らく9歳くらいに見えるその幼女は言ってのけたのだ。
「私はあなたを救いに現れた神です。どうかこの手をとって、あなたの悩みを」
「間に合ってます」
なんだ、ただのちょっと痛可愛いロリか。
再び帰路に着く俺だったが、数歩歩いた先で、ロリはまたもや現れた。
何もない、ただ夕暮れの迫った夕景の中から、忽然と。
「ま、待ってください! お話だけでも!」
両手を胸のところでグーの形に握って、まるでジュニアアイドルのオーディションに初めて訪れた子どものように緊張した面持ちで俺を見つめてくるロリを、さすがにそれ以上は無視できなかった。
「なんの用すか」
「あなたはかつて、神童と呼ばれていたと聞きます。神童というなら神の子、つまり私の子どもです。助けないわけにはいかないじゃないですか!」
なんだ、この自称神は?
俺が自分の子ども?
……どうやらこの神様とやらは、「神童」という言葉を根本的に勘違いしているらしい。俺にはれっきとした人間の母親がいるし、それに大切なママだっているんだ。
だが、どうにも振りきるのは難しいらしい。
ごめん、ママ。
ちょっとだけ、帰るの遅れます。
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