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ママといっしょ!
「よーわ、ざっこ♡ ザコ虫♡ 給料泥棒♡」
「最初の方が教え甲斐あったよ~♡」
「このウジ虫、ミジンコ、ミドリムシ~♡」
「プランクトンの繊毛の方がよっぽど役に立つんだけど?」
「苔むした雑輩♡ 歩くオワコン♡」
ぐぅぅぅ……っ!!
ママの子どもになろうと決めてからしばらく。
俺は相変わらず、仕事場で同僚たちから鼻摘みにされていた。あまりな言い様に抗議していたら思わず手が出て防犯ブザーを鳴らされたし、それ以来会社も俺の動きを注視してくる。
しかも最近は……。
「処す? 処します? ねぇ智久、母に言ってくれたらいつでもこの不敬者たちを畜生に変えることができますよ? そうしたら踏み潰しておしまいなさい、ほら、ね? だから私に祈るのです智久、ねぇ、ねぇ智久」
同僚たちの言葉を受け流すのでさえ大変なのに、最近はこのロリ神様もセットだ。どういうわけかすっかり俺に取り憑いたみたいに傍にいるロリ神様は、何としても俺に頼らせたいのか、いちいち不穏当な提案をしてくる。
何だろうか、誰か適当に人間を選んで頼られないと神でいられなくなるとか、何かそういう事情でもあるんだろうか? 前に『お試し』といって同僚たちの脳をママの通う小学校のウサギたちと入れ換えたときは社内の風紀がとんでもないことになった。そんなことをするくらいだからこのロリ神様の力は一応本物なんだろうが……。
「間に合ってるよ」
「えぇ!?」
本物だからこそ、間違ってもこのロリ神様には頼れない。頼ったが最後、何が代償になるかわかったもんじゃないし、俺への執着具合といい諸々の不穏さといい、もうロリ邪神なんじゃないかと思い始めているのもある。
それに、俺は。
「俺はさ、自分の努力でママの子どもになりたいんだよ」
「智久……、そんな苦難を自分に課さなくなって、」
わかってねぇ。
わかってねぇよ、この神様は。
「俺のママは!」
そう、俺のママは!
「琴音ママだけなんだよ!!」
紛れもない真実。
これが俺の真実なんだ!!
そして、今日もあの寂れた団地へと帰っていく。部屋の更新料だって払ってあるから、今日はたっぷり甘えられるぞ……!!
「ママぁ、ただいまぁ~!!」
「おかえり、ともくん♪」
クゥ~! これこれ!!
この可愛い『おかえり♪』のためなら、俺はいくらだって頑張れる! 早速ママの、出会った頃より育った、若々しいハリに満ちた膝枕に飛び込む。
少し薄くなりつつある俺の頭を撫でながら、ママが「今日はどうだったの?」と尋ねてくる。
「頑張ってきたよ~。チクチク言われても、やめずにお仕事してきたよ?」
「ともくんは立派さんだね、頑張ってて偉いな~」
「えへへへ」
うはぁ~、柔らかい!
ママの手は相変わらず柔らかいなぁ、疲れなんて吹き飛んじゃうよ! ネコではないが、思わずだらしない声が漏れてしまう。あぁ、五臓六腑にママのなでなでが染み渡る……幸せって、こういうことを言うんだなぁ。
「今日は何食べる?」
「刻みしょうが!」
「そっか、ともくんはママの刻みしょうが大好きだもんね。じゃあ準備してくるからちょっと待っててね」
出会った頃のあどけなさが抜けてきた──それでも魅力的な可愛らしい声で優しく告げたあと、琴音ママは台所へ向かっていった。少し背が伸びてきただろうか? ママの背中を見ながら、しみじみ月日の流れに思いを馳せる。
やがて、タッパーいっぱいに詰め込まれた刻みしょうががテーブルに置かれるのを見てから、俺たちの夕食が始まった。
「ともくん、あーん♪」
「あぁ~んっ、ンンンンぅ、おいしいよママぁ」
「ふふ、いっぱいあるから慌てないで食べてね」
「んむんむ、むぁ~い」
幸せだなぁ……俺ぁ幸せだなぁ!
ママの箸で刻みしょうがを『あ~ん』してもらえるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう! あ、もちろんやらしい意図なんてこれっぽっちもない! これっぽっちもないが、どうせ貰うならママの箸でもらいたいだろ、そうだろ!?
「ねぇともくん、食べながらでいいから聞いてくれる?」
「? うん!」
今までの経験で、だいたいわかる。
ママがこう切り出すときは、大切な話をするときだ。もちろん俺はママの味方だし、ママの人生はママのものだというのもわかっている。
ママの子どもになる試みは目下進行中だが、それでも
「ママね、お母さんになります」
……えっ?
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