失敗と失敗

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失敗と失敗

 荒れた山中の街道で、魔族の少女――ノナはそれを呆然と見つめていた。  9割方燃え尽きた、封筒だったもの。  ノナの周囲には火蜥蜴の骸が転がり、この場で戦闘があった事が伺える。 「きれいに燃えたわね」  茫然とするノナに、ダーク・フェアリーの少女――フェマはドライな言葉を投げた。  隣町に荷物を運ぶ依頼の最中、火蜥蜴の群れに襲撃され、ある荷物が火に包まれた。  それは、出版社への配達を依頼された原稿だった。 「修復は無理ですね……」  焼け残った残骸を見つめ、ノナは憂鬱な表情を浮かべる。 「どうすんの? 配達のリミット、ギリギリだけど?」  然程遠慮する様子もなく、フェマはそう尋ねた。 〜〜〜  戦闘からしばらくの後、ノナは街にたどり着き、配達先の出版社を訪れていた。  現れた担当者は、焦げた紙片を手に困惑の表情を浮かべている。 「すみません。私の不注意で焼けてしまいました」  ノナは正直に、申し訳無さそうにそう告げた。 「これは、先生のジョーク?」  担当者は尋ねるが、ノナは肯定しなかった。 「悪いけど、受領は無理かなぁ」  歯切れの悪い語り。原稿の形が失われている以上、受領不可となるのは当然だった。 「はい、分かっています。ただ、こうなったのは私のせいなので、その、依頼主を責めないでください」  ノナは担当者をまっすぐに見て、そう語る。 「仕方ないね。それじゃあもう一度、先生から原稿を貰ってきてくれるかな? 締切はこっちで何とかするからさ」  同情し、担当者は大人の優しさを示して席を立とうとした。 「あのさー。貰ってくるのはいいけど、届けるのは白紙の束でいいわけ?」  そこにふと、フェマが口を挟む。 「白紙の束?」  フェマの言葉の意味が分からず、ノナはオウム返しに尋ね、担当者は頭上に疑問符を浮かべる。 「そ。私見ちゃったんだけど、あの原稿、何も書かれてなかったのよね」  フェマの言葉に、場の時が止まる。 「それ、マジで?」 「うん。マジで」  一瞬の後、ブチ切れた担当者の絶叫がその場に響いた。 〜〜〜  結局、焼けた原稿は受領された。  ノナは督促状を運ぶ依頼を受け、来た道を戻る事になった。 「不用意に依頼を受けたのは、良くなかったですね……」  街道を歩みながら、ノナは呟く。 「ま、ちょっとは依頼に疑問を持った方が、いいんじゃない?」  フェマは軽い口調で、そう答えた。
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