どうもこんにちは、店長です

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 しばらくは穏やかな日常が続いていたんです。  そりゃね、夏の暑さは大変でしたけども、ご飯は美味しいし、元気も出て来て塀もひとっ飛びだし、これで福の野郎とも勝負出来るぜってほどの回復も果たしたんですが、ここに来て、あの大型台風が直撃すると云う災難に見舞われたんですよ。  まぁ私、野良生活が長いので、直感でこの様な自然災害は分かってしまうんですね。  あぁ、せっかく回復出来たのに、これはもしかして私も終わりかなと覚悟をして、その日は最後の晩餐のつもりで父さんと母さんの家に帰りました。  私が訪れると、父さんと母さんと、なんと次女さんまでが勝手口で私を出迎えてくれていて、私はそれに嬉しくなって、今日までの御礼も兼ねて、私には似合わない、人間が好みそうな仕草をありがとうの気持ちを篭めて精一杯演じてみました。  すると、母さんはニコニコとして、しかし何時もなら足元に置いてくれるはずの器をケージの中に入れるのです。  腹ペコの私は直ぐにケージに入りご飯をガツガツと夢中で腹に入れていました。  パタンッ  えっ?  食事が終わり気がつくとケージの扉が閉ざされており、私はケージに捉えられてしまったのです。  ええ、もう、その時はとても怖かったです。正直、裏切られた気持ちにもなりました。  力持ちの父さんがケージを持ち上げ、私は初めてこの家の室内にいれられたのです。すると居る居る、網戸越しに見た面々が、もう敵意剥き出しで私を見ている。  しかし父さんはそれら先住の奴らを「うるさいんじゃお前ら!どけ!」と足で蹴散らし、どうやら父さんと母さんの寝室に私を運んだのです。  寝室に入ると何処かで見た様な見てない様な、二階建ての真新しい猫ハウスが設置されていて、それを見て私はやっとケージに閉じ込められた理由を知ったのです。  台風直撃のニュースを見て父さんと母さんは急いでこのハウスを購入し、組み立て、私の為に用意してくれたんです。  ノミダニや寄生虫、ウイルスを持つかも知れない私を室内に入れるには沢山の葛藤があった筈です。  それでも父さんと母さんは私を台風から守ってくれたのです。  7年間、数々の出来事で凍りついてしまった人に対する猜疑心がゆっくりと、それでいて確実に解けて行くのが何だか心地良くて、私は父さんと母さんに初めてお腹を見せて撫でる事を許しました。 0fe0b0b8-2e78-4528-b228-0c142457ee55 c35852cd-a2e4-4994-aa8a-e373534544cc
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