どうもこんにちは、店長です

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 この辺りはホント毎度の事ですが、心配されていたほどの被害もなくその日の朝は台風一過、陽射しが眩し過ぎるほどの晴天でした。  あれから一週間。  まだ猫ハウスから出て部屋を散策する勇気は無いのですが、それでも随分とこの猫ハウスにも慣れて来ました。  朝と夜、バランスの取れた美味しい食事をお腹いっぱい食べて、空調の効いた部屋で暑さや寒さもなく、福に襲われる心配もしなくて良い。夕食の後にはマタタビをふりかけた玩具で遊んでもらったりオヤツのチュールも貰えるんです。  シャンプータオルで拭きまくられるのは苦手だけど、ブラシで執拗に毛をとかれるのもちょっと苦手だけど、それ以外、ここは外に比べたら天国。  でもその日、父さんは四時に起きて向こうの猫にはご飯をあげたのに、私の所には何故か手ぶらで来て何だか申訳のなさそうな顔をして私に何かを言っているのです。  私は渾身のジェスチャーで自分が空腹な事を父さんに伝えるのですが、何故か父さんは申し訳なさそうな顔をするだけでその日は朝食を運んで来てはくれませんでした。  そして、それは午前九時の事でした。  父さんがご飯を入れた皿を手に持って、母さんはチュールを手に持って寝室に入って来たのです。  なんだ、やっとご飯が食べられるのか、そう思って猫ハウスから飛び出した瞬間、なんと私の視界にあの忌まわしいピンク色のケージが飛び込んで来たのです。  私はその時、過去の朧げな記憶の中にあった人間の「裏切り」という行為をまた思い出しました。  もう詳細には覚えてはいないのですが、私は過去、人間に裏切られ捨てられた事だけは紛れも無い事実だったから。  それを思いだした瞬間、ここ二ヶ月ほどの父さんと母さんとの思い出は消し飛び、私は改めて人間に対する猜疑心と嫌悪感に支配されました。  また捨てられるのだと思いました。また苦しい野良生活に戻されるのかと思いました。否、もしかしたら保健所と云う犬猫を屠殺する場所に連れていかれるのかも知れない。  母さんが私を抱き上げようとした時、私は母さんのその手に思い切り爪を立て引っ掻きました。  母さんの柔らかな皮膚から血が滲んで、それでも私は迫り来る恐怖と焦燥で父さんと母さんから逃げ回りましたが、ついには追い詰められ、私はあの忌まわしきピンクのケージに捕獲されたのです。
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