どうもこんにちは、店長です

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「この子、本当に野良なのかしら、お利口さん、少しも暴れないわ」  そりゃそうでしょ、良い子にすると誓ったんですから。  全身麻酔とは凄いもんですね。私は一瞬で深い眠りに落ちました。  どれほど眠っていたのか、それは永遠とも思えるほどの深い眠りでした。  霞掛かった白い靄の中で柔らかな毛感触を幽かに感じ、私は乳飲み子の頃に感じた母の温もりに抱かれていた様な気がします。  柔らかな母の乳房を一生懸命に、ただ一生懸命に揉んで、母乳を飲み終えるとまた深い眠りに落ちる事を繰り返していたあの頃。  一番幸せだったあの頃の記憶の中で、私は母の温もりを、母の柔らかさを手放すまいと、それにしがみつこうと必死で手を動かしていて、気がつくと私のその手を父さんと母さんが優しく摩ってくれていたのに気が付きました。  どうやら手術は無事に終わった様です。  あれ?  父さん?  母さん?  どうして泣いているの?  意識を取り戻した私が最初に見たのは、父さんと母さんの涙が滲んだ瞳でした。 「残念なお知らせがあります」 午後4時、お迎えに来た父さんと母さんにあの女性は開口一番そう言ったそうです。 「店長くん、白血病と寄生虫は陰性でしたが、エイズは陽性でした。ご指摘の通り鳴いた後に舌をペロペロさせるのは歯肉炎で歯が抜けかけていたからです。その歯は抜歯しましたが、歯肉炎で歯が抜けるのはエイズ初期の症状。おそらく、店長くんはエイズを発症していると思われます」  そうか、私がエイズを発症したのを知って父さんと母さんは・・・  
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