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帰りの車内は父さんも母さんも口数も少なく重い空気でした。
私はと言いますと、痛みはそれほど感じないのですが、下半身は酷く痺れて感覚が鈍感、何と言いますか、人間風に言うなら倦怠感と云うやつかもしれません。
私の所為でこんな重い空気になっているもんですから、私としてはお二人を和ませたい。
ですが、いかんせん私と云う猫は顔がこう、愛想もクソもない顔でして、更に長い野良生活で身に染みた警戒心と言いますか、条件反射で人間に対して身を躱してしまう、まぁ愛される家猫としての資質は皆無なのですよ。
ね?解ります?
自分でも嫌になるほど険しい顔なんですよ。
ツナの様なアザト可愛い仕草も全然出来ませんし、そこに来てこの麻酔の名残による倦怠感。
いや、ホントもう、申し訳ないとは思うのですがどうすることも出来ず、せめてお二人の手を煩わせない様、ケージの中で大人しくしているしかなかったんです。
え?エイズ発症してショックじゃないのか?
いやいや、はい、全然。
余命宣告されて怖くないのか?
いや、だから全然、大丈夫ですってば。
考えても見てください。余命ったって貴方、私、野良猫で7歳ですよ?野良猫なんて5年も生きられれば良い方で早けり3年が寿命なんです。
なので現在、生きていられる事はもう、オマケみたいなものなんですよ。
それにエイズは進行が遅いので、発症からの生存年数が平均で2年4か月って、私ほぼ10歳ですよ。はっきり言って大往生じゃないですか。
それに失ったにゃん玉の代わりに人間の心が理解出来るなんて特典まで頂いた上に、父さんと母さんと余生をゆっくり過ごせるなんて、もう感謝しかないじゃないですか?
だから、父さんと母さんには泣いてほしくない。
私は身に余る幸運を手にしたのだから。
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