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よくある話だろ?
雨が降りそうだから、折り畳み傘を用意したのに、結局、雨が降らなかったって話。使わずに済んだことで、用意した傘は雨が降らないお守りになったんだって自分を納得させる――よくある話。
だから誤解しないでくれ。
車のトランクにシャベルやシートや着替えや縄を用意していたのは、明確な殺意や綿密な計画があるわけでもなくて、事前に用意することで、結局使わずに済めばいいと思ったからなんだ。
殺さないお守り代わりとしての効果を発揮して、恋人である岩波 咲良を殺すことなく、大学を卒業したあとも交際を続けて、ゆくゆくは結婚も視野に考えていたんだけど、現実はいつもオレ、仁木 ヒトシの切実な願いを裏切り続けるんだ。
だから、信じてくれ。
いや、信じてください。本当に、彼女を殺すつもりなんてなかったんだ。
山に死体を埋めたのも衝動的なもので、埋めた場所がその山だったことも、大層な理由があったわけじゃなくて、ほとんどが衝動的で、偶然がいくつも積み重なって生まれてしまった不幸な事故なんだ。
だから、だから――。
「お前の言い訳はどうでもいい。つまり、お前は女人禁制のこの山に、女の死体を埋めたってことだろう?」
「ヒィッ!」
血走った瞳でオレを睨みつける男の気迫に、オレの口から情けない悲鳴があがった。
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