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大山がリュックサックを地面に降ろすと、台座付きのライトと、折り畳み式のシャベルを二本取り出してオレに渡した。
懐中電灯をリュックにしまい、掘り起こす場所の近くにライトを設置する大山。腕で乱暴に汗をぬぐいながら作業にとりかかり、オレの方は、未消化の感情を持て余して立ち尽くす。
このままじゃ、メメが現世に現われる。
だけど、その呪いは、オレを含めて、どう処理する?
この期に及んで、疑問と雑念が脳内に渦巻き、シャベルを握る手が汗でぬめり震えた。
このままだと、確実にヒドイことが起きるのに、いやな予感に絡み取られて、身体を動かすことができない。
「…………」
「…………」
不意にシロキチと目があった。
シロキチは無垢な黒い瞳をオレに向けて、その視線に居た堪れなくなって、ようやく作業を開始することができた。
ざっざっざっ……。
最初に出てきたのは、血で汚れた服とシャベルだ。
証拠隠滅のために、埋めた時の八分目あたりで、これらを埋めたのだ。
ざっざっざっ……。
「……」
「……」
オレたちは無言で掘り進めた。
一度掘り起こした地面であり、一人ではなく二人での作業だから、死体を埋めた時よりも容易く地面がほぐれて、早く深く掘り進めることができた。
ざっざっざっ……。
穴の深さが腰まで届いた。
よくここまで深い穴を掘ったものだと、自分で自分に呆れてしまう。
ざっざっざっ……。
ようやく分厚い土の膜から青いシートが見えてきた。
「これか?」
「はい」
大山の問いかけに、オレは短く答えた。
青いビニールシートに死体を包んで、シートの上から縄で縛り地面に埋めた。このペースなら10分もかからずに、死体を完全に掘り起こすことができるだろう。
「そうか、じゃあ、死ね!!!」
「えっ!」
――ガン!
大山のシャベルがオレの頭を直撃する。
痛みや衝撃よりも驚きが先行し、頭が真っ白になった状態でオレはその場に倒れた。
「な、なんで、助けてくれるんじゃ……」
「はぁっ!? なんで俺が、被害者に対して謝罪一つもしない上に、言い訳だらけの殺人犯を助けないといけないんだよ!」
無情に吐き捨てられた言葉に、今更ながら自分の能天気さを呪った。
逃げ出そうにも体が思うように動かず、かろうじて仰向けの体勢になると、穴から出る大山の姿が見えた。
「やめ、たすけ……」
もがくようにメメたちが、皮膚から這い出ようとするのを感じた。
しかし、大山の方が行動が早く、独特の匂いがする液体を大量に振りまいた。
この匂いは、まさか灯油っ!
「お前ごと死体を燃やして、男か女か判別がつかないレベルで、焦げた死体を粉々にして混ぜ合わせ――山に埋める。分かりやすく言うと、生贄の儀式さ。そうやって、俺たちはメメの祟りを防いできたんだ。観念するんだな!」
無情な声と共に、火が付いたままのライターが穴に落とされた。
ごうっと音をたてて、強烈な光と熱風が全身を包み、まつ毛が爆ぜて、眼球に直接火の粉がかかる。
「――ッ!!!」
悲鳴を上げようにも、穴の中で渦巻く炎によって、喉どころか肺も潰された。
白と黒とで視界が明滅を繰り返し、遠くから犬の遠吠えが聞こえてくる。
「あー、グチグチグチグチ……。まったく女々しい奴だった」
うんざりとした大山の声が、オレが最後に聞いた言葉だった。
【了】
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