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03.ヴァリエーレさんの屋敷にて
剣地:ヴァリエーレの屋敷
その日の夜、俺と成瀬はヴァリエーレさんの家に泊ることになった。ヴァリエーレさんの家はロイボの町ではかなり有名な騎士の一家であった。まさか、あの人がこんなに偉い人だなんて思わなかった。家……というか屋敷に入ると、入口に待機していた無数のメイドが同時にヴァリエーレさんに向かって頭を下げた。
「出迎えありがとう。今日はお客がいますので、着替えをお願いします」
「分かりました」
メイドの一部が、俺と成瀬に近付き、こう言った。
「お客様。今から案内をします。お部屋は一緒でよろしいでしょうか?」
俺と成瀬は顔を見回せ、相談をした。
「一緒の部屋でいいよな?」
「別々だと掃除が手間になると思うし、それでいいわね」
「分かりました。では、お部屋の方へ案内します」
その後、俺と成瀬は部屋へ向かった。部屋へ着き、俺は腰の剣を机の上に置き、メイドに教えてもらった客用の部屋着に着替え、ソファに座った。
「私、ちょっと汗かいたからシャワー浴びてくる」
「分かった。それじゃあ一緒に浴びるか?」
俺は冗談のつもりでこう言った。その後、成瀬は水の魔法で俺を攻撃した。
数時間後、ヴァリエーレさんが夕食の支度ができたから食堂に来てほしいと、伝言が来た。俺と成瀬は軽く身支度をし、部屋の入口で待機していたメイドと共に、食堂へ向かった。
予想はしていたが、食堂もとんでもない広さだった。食べるのは俺と成瀬、ヴァリエーレさんだけなのに、テーブルはかなり大きいし、上には特大のシャンデリアがある。流石有名な騎士の家だなと、俺は思った。
食事の方も、とんでもなく美味かった。野菜も日本の野菜とは違った形だが、歯ごたえや野菜本来の味に変わりはなかった。俺の好きな肉料理も、たくさんあった。マンガで見たような骨付き肉もあるし、鳥の丸焼きもある。俺は無我夢中で、それらを食い始めた。
「剣地、少し落ち着いて食べなさい。みっともないわよ」
隣にいる成瀬が、俺の頭を叩いてこう言った。食事が終わると、ヴァリエーレさんが話を始めた。
「では改めて自己紹介をしましょう。私はヴァリエーレ・ルーツアリといいます」
「俺は剣地っていいます」
「私は成瀬といいます」
「ケンジとナルセ、あなたたちはどこの出身ですか?」
出身地。俺と成瀬にそんなのはない。だが、異世界から転生しました。だなんて言えるはずもない。異世界からやって来たなんて言っても、信じてくれるはずがない。
「言えないのですね……すみません。少々手荒ですがこちらで調べます」
ヴァリエーレさんはそう言うと、メイドに何かを持ってくるように伝えた。しばらくし、ヴァリエーレさんのメイドが携帯のような機械を持ってきて、ヴァリエーレさんに渡した。
「これはヒューマンチェックというアイテムで、相手がどういう人物か調べる機能があります。嘘をついても、これがあれば一発で分かります」
「これも魔力で動いているのですか?」
「ええ。では、始めましょう」
と言って、ヴァリエーレさんはヒューマンチェックを俺の額に付けた。すると、電子音が鳴って画面に表示が出た。
名前:ケンジ・シロガネ
年齢:十五
性別:男
職業:未登録
出身地:異世界(元の世界で死亡し、転生した)
習得スキル
・ソードマスター
・ガンマスター
・ナイスフェイス
・スカイウィング
・インフィニティポーチ
これってもしかして、俺の情報か? 名前や年齢、それにどこで生まれたかが書いてある。しかも、ちゃんと異世界って書いてある。
「異世界……あなたたちはここではない世界で生まれて死に、転生でここに来たのですね」
「はい。そうですけど、珍しくないのですか?」
「ええ。たまに異世界からやって来たっていう人がいるのよ。だから、このアイテムが生まれたのよ」
便利な道具があるな。俺は感心しながら話を聞いていた。その後、ヴァリエーレさんは成瀬にも、ヒューマンチェックを使った。使う前に、成瀬はこう聞いていた。
「すみません、情報が乗るのは名前とか簡単な項目ですよね」
「ええ。そうよ」
「細かい情報は載りませんよね」
「うーん……私が使うのは簡単な個人情報しか表示しないから、そんな細かいことは教えないと思うわ」
「一応安心」
見られたくない秘密でもあるのか。幼馴染の俺にでも、何か隠しているのだろうな。俺はそう思ったが、あまり深く追求すると、成瀬にぶっ飛ばされそうだから、やめておこう。そんなこんなで、成瀬の情報が画面に表示された。
名前:ナルセ・タチバナ
年齢:十五
性別:女
職業:未登録
出身地:異世界
習得スキル
マジックマスター・ネオ
ゼロマジック
ラブハート
ブレイブソウル
ソードマスター
「ナルセの方が強いのね。マジックマスター・ネオとゼロマジックは長い修行しないと取れないスキルなの」
やはりそうか。確かマジックマスター・ネオは全ての魔法を扱うことができて、ゼロマジックは魔力の消費がなしで魔法が使える。説明からして、いかれた性能だなと思ったんだよ。
「ケンジたちはこの世界に来てどのくらい経つの?」
「今日が初日です」
「そうか、じゃあまだこの世界のことを詳しく知らないわね」
ヴァリエーレさんは立ち上がり、どこかへ行った。しばらくし、本を持って戻ってきた。
「この本にこの世界のことが書かれているわ。政治、経済、歴史、法律の他にも、文学、音楽、美術、そして仕事のこと。知りたいことは大体ここに書いてあるわ」
俺たちは本を受け取り、読み始めた。
まず分かったのは、ここでは十五歳で成人となる。つまり、十五歳で大人と同じ扱いを受ける。そして、働くにはいくつか方法がある。日本と同じように店で働くか、勉強して政治家になるか。
日本にない職業として、ギルドの戦士がある。簡単に言えば、依頼を受けて仕事をし、報酬をもらって生活をする。登録するには簡単だが、仕事の難しさは依頼によって変わるし、報酬金も依頼の難易度で上下する。この仕事については神様から簡単に説明されたが、この本ではギルドに関する情報が詳しく乗っていた。
「それで、これからどうするつもり?」
俺はすぐにギルドの戦士になると言おうとしたが、成瀬が俺の口を防いだ。
「何すんだよ」
「今後に関わることなので、剣地と相談して決めます」
「分かったわ。それまでここにいていいから」
その後、俺と成瀬は部屋に戻り、話をすることになった。
「相談の必要はあるか? ギルドの戦士になればいいだろうが。神様からもらったチートスキルもあるし」
「簡単に言わないでしょ。もし失敗してお金とかもらえなかったら、意味ないじゃない」
この言葉を聞き、俺は呆れたようにため息を吐いた。
「成瀬、最初から失敗するってことを考えるな。そんなことを考えていると、先に進まないぞ」
「それは分かっているけど、この世界に保険ってないのかしら? 怪我したときどうするのよ」
「お前が治療してくれよ。マジックマスター・ネオで回復魔法とかが使えるだろ? それにゼロマジックで魔力消費というデメリットがない。お前何のためにこのスキル選んだ」
「それはその……何となく。魔法使いにとって優秀なスキルだなーって思って」
「優秀というか、チートだぞ。反則レベルだぞ」
「それはいいけど、もし私が傷ついたらどうする? あんたが治してくれるの?」
俺は少し考えた後、成瀬にこう言った。
「うーん。ヴァリエーレさんに魔法を習う学校みたいな場所を教えてもらって、回復魔法を習得する。お前のために」
この言葉を言った後、成瀬の顔は真っ赤になった。お前のためにと言ったのがドキッとしたのか?
「分かった。あんたが守ってくれるなら……ギルドに登録してもいいわ」
「よし。じゃあ明日はギルドに行って登録するか」
明日の予定が決まった。明日はギルドへ行き、いろいろと登録をする。とにかく、ギルドでいろいろと仕事をこなすしかない。
「じゃあ俺風呂入ってくるから」
「分かったわよ」
俺はそう言って、風呂場に向かった。
成瀬:用意された部屋
あいつが風呂に入っている中、私はあの時のヴァリエーレさんの顔を思い出していた。多分、あのバカは気付いていないだろう。ヴァリエーレさんは剣地の顔を見る時、少しばかりうっとりしていた。あいつが選んだスキル、ナイスフェイスのせいだろう。
日本で生きていた時もそうだった。あいつは何かしら、女子に惹かれる体質だ。ただ、本人はラノベの主人公みたいにかなり鈍感のためか、女子の好意には気付いていない。だが、他の女子も剣地に告白しようと思ったのだろうが、できなかった。私がいつも、あいつの隣にいたからだ。
私は、ヒューマンチェックで自分の情報が公開されるのが怖かった。自分の本当の気持ちが、あいつに知られるのかと思って、ドキドキしていた。ずっとあいつのことが好きだなんて、あいつに知られたらどんなことになるのだろうか。
今はこれでいい、この関係でいい。
私はそう思い、ベッドに潜った。
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