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30.成瀬の怒り、大爆発!
ヴィルソル:西の酒場
我はかなり強い魔力を察知した。それと同時に外から激しい爆発音と建物が崩れる音が聞こえる。間違いない。ナルセの暴走が始まった。
「何この魔力……ちょっと私見てくる」
勇者がそう言って、外に出た。まずい! あいつ、自分の立場を忘れておるだろ、勇者がクーデターに参加しているって世間に知られたら何て言われるか分かっておるのか? というか、何で我が奴の心配をしなければならないのだ! ああもう! 仕方あるまい!
「我も行く」
「分かったわ。私とルハラはここで待っているから」
「オッケー。今度戻ってくるときは皆と一緒にねー」
「ああ。すまない」
どうやらヴァリエーレとルハラもこの状況を察しているようだ。もし、ナルセが大暴れしているのであれば、我と勇者で止めるしか方法はないのだから。
ティーア:酒場の入り口前
外に出て私は目を疑った。王国が作ったとされる魔道兵器が次々と大きな音を立てながら崩壊しているのだ。さらに、地面からはツタのようなものがうねうねと動いていて、魔道兵器に絡みついて壊していたのだ。
その原因はすぐに分かった。宙に浮いているナルセだ。魔力を使って宙に浮くなんて……スカイウィングでもない限り難しい芸当だ。もうマスターしているなんて、すごいな。
感心している場合じゃない、早くナルセをどうにかしないと。だけど……どうしたらいいのだろう? ケンジの姿はないし……ほんと、どうすればいいの?
「おのれ、ネズミが!」
あの独裁者の声が聞こえた。私は柱の裏に隠れ、様子をこっそりと覗いた。
宙には魔力で動く円盤型の魔道兵器がいくつもこちらへ向かって飛んで来ていた。そのうちの一機があの独裁者を回収し、保護した。
「空を飛んでいるうちは貴様の技も届かない! ファーッハッハ! 観念して死ね!」
スピーカーの音量がでかいせいか、あいつの声がここまで聞こえる。あー、うるさい声だなー。
そんなことを思っていると、ナルセが両手を上にあげた。それに合わせ、上空に暗雲が現れた。
「何をするつもりだ?」
「雨を降らすのよ。ただし、ただの雨じゃないわ」
この直後、上空から雷が降ってきた。雷だけじゃない。光の柱や鋭くとがった氷柱、挙句の果てには大きな隕石まで降ってきた。
「な……なんじゃこりゃァァァァァァァァァァ!」
雷と光の柱と氷柱と隕石は、あいつらが乗る円盤を次々と破壊していった。
一度に雷や氷柱、そして扱いが難しいとされる光属性の魔力と、強い魔力を使って作られた隕石。
どれもこれも並の魔力使いじゃあ扱えない。やはり、ナルセの力は恐ろしい。
「はぁ……はぁ……始まってしまったか……」
後ろから魔王が走ってきた。息を切らして走ったためか、かなり疲れているように見える。
「魔王! どうしてここに?」
「ナルセの様子を見にきたのじゃ。昨日の時点でかなり怒っていたからな」
「そうだったの……」
その直後、地面が激しく揺れ始めた。それと同時に、私たちの目の前から大きな砂煙が発生した。
「こうなったら仕方がない! 最終魔道兵器、ベージを使用するしかあるまい!」
目の前から、巨大な魔道兵器が現れた。兵器というか、どっちかというとロボットのようなものだった。
だが、ロボットの右手には巨大なバズーカ砲、左手には防御用なのか大きな盾、そして胸のあたりにはキャノン砲らしきものが装着されていた。
「ハーッハッハ! これで貴様も終わりだ!」
巨大ロボットは背中のジェット機を使い、空を飛び始めた。そして、挑発をしているのか、ナルセの周りをぐるぐる回っていた。
「どうした? 怖くて身動きもできんのか?」
「あほらし、そんなポンコツに乗っただけで勝った気になったの? バッカみたい」
ナルセはそう言うと右手を伸ばし、魔力を使用して剣を作った。
「これ一本で十分戦えるわ」
「剣一本でこのベージと戦うと? 笑わせるわ!」
ロボットはバズーカ砲をナルセに向けて構えた。このままだと、ナルセが撃たれる!
「死ね!」
バズーカ砲が発射され、巨大な弾がナルセに向かって飛んで行った。
それに対し、ナルセは魔力の盾を目の前に出した。そのおかげで、バズーカ弾はロボットの方に跳ね返った。
「何! くそっ!」
ロボットは盾を前に出し、防御をした。だが、爆発の威力が強かったせいか、盾は粉々に壊れてしまった。
「うわっ!」
「おわおわおわ! 危ないな!」
バラバラになった盾が、ここまで降ってきた。まずい、どこか逃げ道はない? 私と魔王が慌てていると、後ろからケンジの声が聞こえた。
「ティーア! ヴィルソル! こっちだ!」
「ケンジ!」
私たちは急いでケンジの元へ向かった。どうやら、地下室に避難していたらしい。地下室にはケンジ以外にも、レットたちもいた。皆無事のようだ。よかった。
「成瀬の様子はどうだ? さっきからすごい音が聞こえているけど」
真剣な顔をして、剣地がこう聞いてきた。魔王が返答に困った顔をして、剣地にこう答えていた。
「あー……もう……止められないかも」
「やっぱりあいつの仕業か」
「ケンジ、止められる?」
私がこう聞くと、ケンジは少し考え、こう答えを言った。
「多分……いや、絶対に無理」
成瀬:町の上空
ベージとかいうロボット、やっぱりポンコツだったみたい。反射されたバズーカの一撃を受けただけで粉々に壊れた。盾を持っていた左手も粉々に吹き飛んでいた。
「ネズミごときにぃ……この私がネズミごときにやられるわけにはいかんのだ! 私は王、この国の王! 誰より強く、偉いのだ!」
スピーカーから下品な声が聞こえる。それと同時に、胴体部分にあるキャノン砲に、魔力の波動が溜まり始めた。
「この一撃で……終わりにしてやる」
本当にアホらしい。そんなもんで私を倒せるわけがない。私は空高く飛び上がり、ロボットの真上で止まった。
「何!」
「一回、地獄を見なさい」
私は魔力の剣を構え、急降下した。勢いをつけて、ロボットを斬るために。
私の予想通り、勢いをつけてロボットを斬ることに成功した。地面に着地し、魔法の剣を消したと同時に、斬られたロボットは爆発した。
「ギャァァァァァァァァァァ!」
上空からあの男の声が聞こえる。このまま落下してぐしゃぐしゃにしてやろうかと思ったけど、あいつの首には懸賞金がかかっている。
このまま死なすわけにはいかない。少しムカつくけど、私は魔力で作った縄で、あいつを捕獲した。
「そんな……この私が……」
爆発したせいで、あいつの髪型は爆発アフロヘア―のようになっており、服も爆発の勢いで散ったか、情けない柄の下着姿となっていた。その姿は本当に情けなかった。
剣地:瓦礫と化した町の中
クーデターは成功した。俺たちの力……ではなく、成瀬一人の力で。
「終わったようね」
「ごくろうさーん。でも出番なくてつまんなかったー」
ヴァリエーレさんと、ルハラが俺に近付き、こう言った。
ティーアとヴィルソルは、ブチ切れた成瀬の様子を初めて見たせいか、その場で茫然としていた。
さて、成瀬を迎えに行くか。俺は瓦礫の山をかき分け、成瀬の姿を探した。
「おーい、成瀬、どこだ?」
「ここー」
少し離れた所から返事が聞こえた。どうやら無事のようだ。少し進むと、力が抜けているのか、倒れている成瀬の姿があった。
「大丈夫か?」
「何とかね。でも、疲れて動けないからおんぶして皆の所に連れてって」
この言葉を聞いた俺は呆れたが、この戦いに勝てたのは成瀬のおかげである。
「分かった。ちょっと待ってろよ」
俺は成瀬の近くに近付き、成瀬を背負った。
「瓦礫を踏んで転ばないでよ」
「大丈夫だよ。そんなドジしないって」
俺は成瀬を背負ったまま、瓦礫の山を歩き始めた。
「かなり疲れたみたいだな。こんなに暴れてさ」
俺がこう聞くと、成瀬は少し考え返事をした。
「ちょっとね」
「ちょっとって……結構派手な音が聞こえていたし、何やっていたんだお前?」
「何って、ただ巨大な木を生やして、空から光やら氷柱やら雷やら隕石をあいつらにめがけて落としただけ」
「ぶっ飛んだことをやったなー。そんなことしてよく無事でいられるな」
「私にはゼロマジックという心強いスキルがありまーす」
「そうだったな。じゃあ背負わなくていいわけだ」
俺は笑いながらこう言ったが、成瀬は俺の首を絞めた。
「ウゲゲゲゲゲ! 冗談だ、冗談!」
「もう、私の気持ちも知らないで……」
「お前の気持ち? 何だ、この後イチャイチャしたいのか?」
「ううん……」
成瀬は俺を強く抱きしめ、俺の耳元でこう言った。
「今すぐにでも剣地に甘えたかった。頑張ったから、ご褒美を上げるつもりでその位させてよ」
何だ。甘えたいだけか。素直に言えばいいのに。結婚しても、やっぱり成瀬は変わらないな。
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