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アルプスの麓の町のレストランのテラス席。 そこからイエスズメにとっては天界に思える標高4000メートル級の山々が、雪に覆われた気高い姿を見せていた。 ジミー・テイラーにとって、その天界に属する雪山は故郷であり、心身ともになじんだホームだった。 雪山を見上げる彼の目には、人間界の尺度を超えた愛情がこもっていた。 彼の向かいに座る女性は、スーザン・ロジェ。 雪山に似つかわしい、清楚な感じの娘だった。 本当に、この娘が銀幕の女神? イエスズメは、イヌワシの話をとても信じられないと思いながら、遠巻きに2人の様子を窺っていた。 スズメがうろついていても誰も気に留めないが、あのイヌワシが現れたら、ちょっとした騒ぎになるだろう。 しかし2人の飲み物に錠剤を入れるというのは、いくらイエスズメでもたやすいことではない。 2人はいつも食後にコーヒーを飲むので、それに錠剤を入れようと決めていたが、2人の目の前では無理だし、2人同時に席を立つというのもありえなかった。 考えあぐねたイエスズメは、ある作戦を立てた。 仲間のスズメに協力してもらい、近くのテーブルの上の料理やグラスをかき回したりひっくり返したりしてもらう。 2人が何事かとそれに気をとられた隙に、カップに錠剤を入れるという手筈だった。 イエスズメは、雪山の女神やイヌワシの名前は出さず、あくまで自分の意思だと言った。 仲間は少々訝しんだが、ジミーの身に危害は加えないと保証した上で協力に応じた。 そして……。 仲間のスズメは期待以上に派手にテーブルの上を荒らし、そのテーブルの客が大声を上げ周囲の客もざわめき、店の者が飛んでくるという大騒ぎになった。 その間、イエスズメは悠々と2人のコーヒーカップに錠剤を入れた。若干の疚しさを感じながら。
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