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スイスアルプス山脈の麓の町外れにある森の木陰で、不釣り合いな2羽の鳥が会っていた。
人目を忍ぶような格好の2羽は、イヌワシとイエスズメだった。
一方は全長2メートルにも達する猛禽で、片方は普通のスズメより多少大きいとはいえ、イヌワシの前では取るに足りない無力な小鳥。
両者は誰の目から見ても、襲うものと獲物だった。
そこに対等な関係など生まれようがなかった。
しかしそんな明白な図式を裏切ることを憚るように、2羽は隠れて会っていた。
1週間に1度の割合で、その回数はすでに数回だった。
「それで、今回の彼についての報告だが」
イヌワシが内緒話をするような低い声音で言った。
巨大な黒褐色の体、鋭い眼光、獲物を容赦なく仕留めるかぎ爪等、どれもが非力なイエスズメを震え上がらせること間違いなかった。
イエスズメが自らの意思でイヌワシと会っているというのは、信じがたいことだった。
「そうね。日ごとの詳しい情報を教えるわ。月曜から金曜が毎日スキークラブに通って練習。土日がオフで買い物や食事に出かけて、日曜にはガールフレンドと会っている。この娘とは、週に1度会っているようね。それから、火曜にはスキークラブで雑誌の取材があったわ」
「相変わらず、スキー三昧の生活だな。それに雑誌の取材は、前回の冬季オリンピックでアルペンスキー3冠をとったのだから、当然だろう」
イヌワシがいかめしい顔つきで感想を述べた。
「ガールフレンドについてだが」
と尋ねるイヌワシの声には、息子を心配する親のような調子が混じっていた。
「私の見た限り、4週連続で会っているわね。真面目そうな娘で、彼も真剣に交際しているようよ。名前は確か、スーザン」
「ふん」
イヌワシは安堵したのかそれとも何か気に食わないのか、鼻息荒く言った。
「私もそのスーザンとやらを見てみたいが、私は大きくて目立ちすぎて、こっそり彼の様子をうかがうことはできないのだ」
そのために、イヌワシはカラスに襲われそうになったイエスズメを助け、交換条件として自分の代わりにジミー・テイラーというスキーヤーを見張ってほしいと頼んだのだ。
初めから計算ずくでイエスズメを助けたのかというとそうではなく、半ば無意識の行動だった。
助けてみてから、頼みごとが咄嗟に思い浮かんだのだった。
礼を言ってすぐに逃げ去ろうとしたイエスズメを、イヌワシは「ちょっと待ってくれ」と引き止めた。
その声に懇願の響きがこもっていたので、イエスズメは止まった。
こんな巨大で獰猛な鳥が低姿勢になっていることに、興味を惹かれた。
そしてイヌワシは、自分の頼みごとをイエスズメに打ち明けた。
ジミー・テイラーの住まいや年齢、容姿などを教え、彼を追跡してどこで何をしたか観察してくれと頼んだ。
それを引き受けたのは、たまたまイエスズメの個体(メス)が好奇心が旺盛で向こう見ずな性格だったからだ。
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