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若い衆達は缶ビールをほぼ一気飲みすると、早速炭火を起こし始めた。
暑い中で一生懸命バーベキューの準備をしてから飲む氷漬けにされたビールは最高だったのだろう。
次々と新しい缶ビールを氷が敷き詰められたペール缶から取り出してプシュッと軽快な音が響く。
もくもくと着火剤の煙が上がり始めて、やがてわくわくするような炭火の香りが立ち込め始める。
「おいおい…まずはタンだろうが。ちょ、お前…待てよ。味付け肉を先に焼く馬鹿がいるか。」
わくわくする香りを帳消しするような焼肉奉行ならぬバーベキュー奉行のありがたき説法が始まる。
バーベキューコンロは二台ある。
若い衆達が囲む大きなバーベキューコンロと、T氏とT氏が格下認定した四十代の同役職達二人が囲む中型のバーベキューコンロだ。
わざわざ肉を焼いてくれている格下認定された四十代の同役職にバーベキューのイロハを語るT氏。
苦笑いを浮かべる四十代二人。
滝のような汗が流れる中でだらだらとバーベキューを語るT氏だがやはりバーベキューというのは魔法だ。
それなりに楽しい時間が流れ始める。
T氏も段々と全開になっていく。
「ビール。」
「はい。」
「肉は。」
「はい。」
「こういうのは言われないでもやるんだよ。言われてやるのは誰でもできる。俺らの時代は◯☓△♨…」
これはこの手の人間のお手本のような流れだろう。
しかし酒の力は偉大である。
若い衆達も格下認定四十代達も面倒くさい奴は置いとき始めるのだ。
酒とは恥だが役に立つ。
徐々にT氏がどっかりと腰かけたコールマンのディレクターチェア周辺から人が消えていく。
だが偏差値70(笑)のT氏はこんなことは想定済なのだ。
「よし。おい、A。俺が使う豚バラブロック出してこい。」
そう、申し遅れたが格下認定四十代二人の内の一人はこの私である。
私は無言でペコリと頭を下げて、クーラーボックスから1kg近い豚バラブロックを出してT氏に手渡した。
「テーブルが無いと下ごしらえできないだろうが。気ぃ利かねぇな。」
『あ、そこまでしないといけないのネ。うるせぇ奴だな。』
私はヘラッと苦笑いしてからH氏に言ってミニテーブルを物置きから出してもらった。
それを私は丁寧に水拭きしてT氏の前に置いた。
T氏はよくわからない下ごしらえをすると自分が持参してきた大きなアルミ鍋を同じく持参してきた大き目のカセットコンロにセットした。
それを満足気に見回して、足元に置いてあった自分専用のクーラーボックスから調味料を出すとドボドボと音を立てて鍋へ入れていく。
「おい、俺特製の煮豚。食いてえだろ?」
『に、煮豚…?このクソ暑い中?マ…マジで?』
という心の声が参加者一同から聞こえてくるようだ。
こういう時に出る独特の愛想笑いが参加者一同に滲み出る。
ニヘラァという表現しかできない私の語彙力を恨むところだ。
「は…い…ぃ…」
皆こんな具合の返事をしたのでT氏は気持ち良く調理を開始した。
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