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バーベキュー大会の熱中症事故を機にT氏は私に対して冷遇し始めた。
元々T氏は年下に挨拶すらできない人間だったが、挨拶だけに留まらず態度自体が悪化していったのだ。
更にしつこい性格も手伝って、私に激しい叱責や露骨な嫌がらせを行うようにもなった。
自分の仕事が無い時はわざわざ私が担当している機械操作室に来てイヤミを言ったり仕事に対して文句を言ったり、そこら辺のものを蹴って歩いたりとまるで癇癪を起こした幼児のような振る舞いを披露した。
そんな日が続いていたとある日、久々に顔を合わせた格下認定四十代の一人と話をした。
彼は私とは違う部署にいて中々顔を合わす機会が無い。
「A、相変わらずか?Tさんは。」
「あぁ…。元々年下には何をやっても何を言ってもいいと考えてる馬鹿だからな。今のご時世でそんなんが通用すると思ってんだからホントめでたいわ。」
この日はラインが停止しており、久々にゆっくりできる日だった。
T氏はなぜか休みを取っていたので、いつもの機械操作室に格下認定四十代の一人がやって来て私とゆっくり話をしていた。
「若い奴らもはっきり言って迷惑してんだよな。まぁAも俺も迷惑してんだけどよ。」
「そらそうだろ。休日返上でお世辞考えなきゃいけないんだ。あれであの態度で若い奴らから慕われてると思ってんだからどうしようもねぇよ。ほい、コーヒー。」
「お、悪いな。ごっそうさん。」
私は冷蔵庫から缶コーヒーを出して格下認定四十代の一人に渡した。
「なぁA、もうさ、人事課にちくったらどうだ?」
彼は缶コーヒーを開けてそう言った。
「人事?あいつらに言って何かなんの?」
「今のご時世コンプラコンプラってうるせぇだろ?人事もそういうのに敏感なんだってよ。」
「ほぉ。まぁウチの管理職に言ったところで何もしないでズルズル引き伸ばすだけだよな。自分の任期だけ波風立たなきゃいいみたいな…。」
「それがそうでもない。あの日の熱中症騒ぎでウチの管理職様は大変ご立腹みたいでな。Tさん呼び出し喰らってボロッくそにガン詰めされたらしいぜ?んで今日Tさん休みだろ?けどこれ休みじゃねぇんだよ。出勤停止だとよ。明日までだと。ホントに…バーベキューだの飲み会だので迷惑かけた上に出勤停止で更に迷惑とかもう終わってんだろあの人…。」
「へぇ…珍しいじゃん。ウチの管理職様ったら…。」
私はとある疑問が頭をよぎった。
我が部署の管理職はスーパーエリートである。
とんでもない大学をとんでもない成績で卒業したとんでもない化け物達の集まりだ。
そんなスーパーエリートに対してT氏は事ある毎に言っていた。
『あいつらの頭は大したことねぇよ。あいつら馬鹿だゾ?俺がなんか言ったらすぐ黙っちまう。管理職連中で俺にモノ言える奴いるか?いねぇだろ?』
それは管理職連中が「あーめんどくせーもういいや。会社のコストには関係ねぇからハイハイって言っとこ。あーめんどくせー。」って思っての行動だと思うが。
五流高校を出てすぐ社会に出てきたT氏と、誰もが一度は聞いたことがある有名進学校から大学の頂点に君臨するであろう大学を首席に近い成績で出て我が社で約十年経験値を積んだ怪物を比べてどう考えれば自分の方が凄いという考えに至るのか、その超ポジティブシンキングの築き方をご教示願いたいものである。
そんなT氏がよく管理職の言うことを素直に聞いたなと、そんな疑問が頭をよぎったのである。
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