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とある夏の暑い日の午後、私は薄暗い機械操作室で5個以上設置されている操作レバーを運転し、仕事をしていた。
冷房はフル稼働だが、クリーム色の厚手の長袖長ズボンの作業着を身に着けている為、それなりに暑い。
強化ガラスを介して見える機械が大げさに照明を浴びている。
それが見やすいようにであろうか、私が勤務しているこの機械操作室は常に薄暗い。
操作台の左右に十台以上並んでいる設備の監視カメラ映像や、操業モニターなどの照度も抑えられており、眼前でガチャガチャと動き、プシュープシューと空圧機器の排気音を響かせる巨大な機械をしっかりと確認できるようになっているのだ。
巨大な機械を動かしている機械操作室はそれほど広くはない。
50㎡程度の室内に機械操作台、アナログなボタンスイッチが並ぶ操作盤が所狭しと詰め込まれている。
室内には私ともう一人、部下である「R」氏が椅子に座り、デスクライトの下で書面とにらめっこしている。
年は三十代半ば、頭は真っ黒な短髪でボサボサに乱れており、不潔感溢れる無精髭が厚ぼったい唇をちぐはぐに隠している。
中途半端な日焼け、胴長短足、年齢不相応なビール腹ととても妻子ある身とは思えぬ見た目だ。
「Aさん、俺点検行ってきますよ。無線持ってくから何かあったら叫んで下さい。」
もったりとした口調でRは私に言うと、そそくさと無線を作業着の胸ポケットにグリップで取り付けて作業帽を被った。
「あいよ。気を付けて。慌てなくていいからな。」
「あい、了解。」
Rは点検簿を片手に操作室から出て行った。
私は機械操作を続けていた。
Rが出て行って数分後、仕事が途切れたので私は操作台の真横にある冷蔵庫から缶コーヒーを取り出してグビリと一口飲んだ。
「あぁ、眠っ…」
私は右手で片目を擦り、そのまま額に浮かんだ汗を拭った。
その瞬間操作室の出入り口の扉が開き、聞き慣れた頭の悪そうな声が響いた。
「よう、お前まだちんたらやってたのか?相変わらず仕事おっせぇな。」
T氏だ。
禁煙の操作室内だが、煙草を咥えたまま私に接近してきた。
「あ、お疲れ様です。」
五十歳にもなって職場のルールも守れない彼は一言二言話すだけでもその人の気分を盛大に害することができる天才だ。
私は勿論嫌いだ。
できれば関わりたくない。
T氏はさっきまでRが座っていた椅子に深々と腰かけて煙草の煙を吐いた。
少し茶色がかった髪の毛は前髪が目にかかるほどの長さであり、Rとは違ってムラなく日焼けした肌をしている。
身長は170cm無い程度、筋肉質だが脂肪が厚めについた感じだ。
何を目指して何を意識しているのか分からないが薄い色付き眼鏡をかけており、いかにもオラオラ系を意識しているといった風貌である。
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