T氏

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T氏は煙草を咥えたまま安全靴を脱ぎ、デスクに両足を乗せた。 もうこの説明がなされた時点で、普通の常識を持ち合わせた人間ではないことはお分かりいただけただろう。 よく「常識って何?」とかほざく人モドキがいる。 常識とはモラルであり、「モラルって何?」とかほざくような人モドキは早急に幼稚園からやり直せと私は言いたい。 いや、それは幼稚園生に失礼だ。 そんな事もわからないのならママのお腹の中からやり直せと言いたい。 いや、むしろ産まれてくるなと言いたい。 T氏はまさに「常識って何?」とかしたり顔でほざく人モドキの一種だ。 「そんなの知恵の無い奴らが作った慣習にすぎん」 「常識なんて集団を都合良く操作する為のプロパガンダだ」 とキレ散らかすような人間だ。 T氏はふぅと煙草の煙を吐いて缶コーヒーを飲んでいる私に真面目な顔をして言った。 「おい、A。仕事がおせぇ。マジで。そんなんじゃ俺みてぇになれねぇゾ。」 私は口に含んだ甘いコーヒーを吹き出しそうになった。 数々の痛い名言を生み出してきたT氏であるが、これほどの名作は久々だ。 これを読んでいる方々に問いたい。 リアルで 「俺(私)みたいになれないよ?」 という言葉は違えどこの様な趣旨の言葉聞いたことがあるだろうか。 返答に困る私を尻目にT氏は続ける。 「まぁ俺は◯◯高校出身だ。勉強はできるし、頭もキレるタイプだ。よくいる勉強だけできるタイプとは違うからな、俺は。」 これはいつもの流れである。 大学を卒業して就職した方からしたら信じられないことだと思うが、高校マウントというのも存在するのだ。 それもT氏の言う◯◯高校とはそこまで優秀ではないのだ。 「はぁ。そ、そうですねぇ…。」 私は缶コーヒーを飲み干してゴミ箱に捨てようとしたところでまたT氏が続けた。 「その缶ここ置け。気が利かないな。俺煙草咥えてんだろ?」 T氏はデスクに乗せた自分の右足の太もも近辺のデスクを人差し指でトントンと叩きそうほざいた。 「あ、すいません。」 私は「うわぁ…」と思いつつ缶を置いた。 T氏は煙草の灰を空き缶に落とすと、次の作業の準備をしている私に構わず続けた。 基本的に話が長いのである。 「そういや、お前んとこの息子そろそろ受験じゃね?」 「あぁそうですね。」 うざい。 作業の準備を始めたら大体話を終わらせるのが普通の人間だ。 仕方ない、彼は普通ではないのだ。 なのでできるだけ返事は簡単に、且つ失礼が無いようにするのがコツだ。 癇癪を起こしたら面倒だし、何よりも話を終わらせたい。 「どこ行くんだ?」 作業準備をしながらT氏の顔を見ると、寒気がするほど汚らしいニヤニヤ顔をしている。 『うっわぁ…コレはうざいな。どうしよ。ホントのことを言った方がいいんかな…いや、どうしよう…R…早く帰って来い!』 私は作業準備が忙しいふりをして、考える時間とRが帰ってくるまでの時間を稼いだ。
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